研究課題/領域番号 |
15K14772
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河本 晴雄 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (80224864)
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研究分担者 |
坂 志朗 京都大学, エネルギー科学研究科, 名誉教授 (50205697)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | セルロース / 熱分解 / 反応制御 / ケミカルス / 芳香族溶媒 / セルロース微結晶 / レボグルコサン / ヒドロキシメチルフルフラール |
研究実績の概要 |
熱分解技術はバイオマスを効率的に変換することができるが、生成物の選択性が低いことが問題である。特に炭化(こげる)反応は、ケミカルスとして利用しにくい固体炭化物を生成するのみならず、その過程で進行する複雑な反応により生成物組成は急激に複雑化する。研究代表者はこれまでの研究で、芳香族溶媒のような非プロトン性溶媒が、セルロースの熱分解で生成する初期生成物であるレボグルコサンの2次分解(炭化)を抑制することを見出した。本研究課題では、このような熱分解反応制御をセルロースに対して応用することを目指した。特に、芳香族溶媒に不溶で、一辺が数十ナノメートルの断面よりなる微結晶が無数に集合した複層構造を有するセルロースに対する芳香族溶媒の作用に着目して研究を進めた。
その結果、極性の官能基(>C=O、>S=O、 >Nなど)を持つ芳香族溶媒が、セルロースの炭化を抑制するとともに、一次熱分解物であるレボグルコサンの収量を大幅に高めることが明らかになった。極性な官能基が必要な理由として、微結晶表面が親水性であり、芳香族溶媒が微結晶間に入り込む際に極性な官能基が必要であるためと考えられた。レボグルコサンとともに高収率に回収された生成物に、5-HMFがあることがわかり、5-HMFを用いたモデル実験から、セルロースの還元性末端およびレボグルコサンの2次分解により生成する5-HMFがセルロース炭化のキー中間体であることが示唆された。また、紫外線顕微鏡観察などを用いた検討から、セルロース細胞壁の内部にまで芳香族溶媒が侵入し、その界面で進行する2次炭化反応を芳香族溶媒が効果的に抑制することが、セルロースがこげることなく、レボグルコサンや5-HMFといった低分子ケミカルスへと選択的に変換できる理由であることが明らかになった。これらの結果は、熱分解反応制御によるセルロースからの低分子有用ケミカルス生産につながる重要な成果である。
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