研究課題/領域番号 |
15K14776
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
山ギシ 崇之 秋田県立大学, 付置研究所, 研究員 (60723830)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 木質炭化物 / 化学イメージング / 吸着 / 金属イオン / SEM-EDX / トリフルオロアセチル化 / フェノール性水酸基 / リグニン |
研究実績の概要 |
窒素吸着量により算出される表面積では評価できない木炭の金属イオン吸着性能を理解する上で、金属イオン吸着サイトとして働く官能基の分布や量を検討すべきである。しかし現状ではその分析手法すら確立していない。本研究は当該年度において、木炭中の官能基を可視化する事を目的とした。木材に対する誘導体化にはアセチル化がよく知られている事から、トリフルオロ無水酢酸を水酸基可視化用の誘導体化試薬として用いた。単糖などの通常誘導体化の対象となる化合物と比べ、木材は圧倒的に反応しづらい為、全水酸基の誘導体化は難しい。また、誘導体化進行中に試料が溶解すれば観察が難しくなる。こうした事から、水酸基の分布の観察に適した条件を探索するため、重量増加率が最大となる条件を検討した。現時点では、脱水酢酸エチル中減圧下攪拌後に上記試薬を添加し、ピリジン触媒下60℃1時間の反応で、木粉は最も誘導体化される事を確認した。
木材及び木炭を、上記条件で誘導体化した後、申請者が開発してきた観察手法を適用する事で、試薬中のフッ素分布を可視化した。通常のアセチル化に近い誘導体化量であったが、木材では同一組織でも誘導体化のされ方が異なっていた。しかし細胞壁の部位ごとに着目すると、リグニンが多いとされる中間層でフッ素の分布が集積した。この事から、中間層はアセチル化されやすい水酸基を持つと考えられた。また、低温で炭化した木炭でも中間層で多く水酸基が分布した。今回用いた木炭の主要な表面官能基はフェノール性水酸基であり、中間層で可視化された水酸基もリグニン由来のフェノール性水酸基ではないかと考えられる。木材ではアセチル化されやすい部位を、木炭ではフェノール性水酸基の分布を、ミクロスケールで可視化できた。これまでの成果と照合すると、金属イオン吸着サイトとして働くフェノール性水酸基が中間層に集中している事を可視化により確かめられたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
木炭中の官能基をミクロスケールで可視化できるかどうかを検証する事と、各種官能基量を定量する事とが当該年度の予定であった。当該年度では、木炭の水酸基を可視化する事に成功した。しかも官能基の可視化をする際の分析時間は、これまでの元素分布の可視化に必要であった分析時間と比べ大幅に短い。これらの結果から、官能基を可視化する手法を開発する上で重要なノウハウが蓄積できたと評価できる。さらに、標準試料として用いた木材で、ミクロスケールで観察する事でアセチル化のされ方に違いがある事を確認できた。細胞壁成分或いは壁構造の違いにアセチル化のされ方も影響するのではないかと予想され、木材の化学的改質による有効利用を目的とする研究においても、これらの結果は非常に興味深い知見であると考えられる。
木炭表面の官能基定量については、従来法を改良した手法を採用し、様々な温度条件で調製した炭化物の表面カルボキシル基量及び表面フェノール性水酸基量を推定した。また、ラクトン型構造が殆ど存在しない事も判明した。本研究で採用した改良法は、煩雑な工程で時間が掛かるという難点があった。しかし簡易な手法に切り替えるとしても、今回の定量値を基に簡易な手法の定量性を十分に評価可能である。計画に遅れが出た場合においても、簡便な手法を採用し研究の進展を早める事が可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの検討により、木炭中の水酸基分布がミクロスケールで可視化されたが、可視化された水酸基が吸着サイトとして働くものであるかどうかは明らかではない。そこで、例えば誘導体化量と表面官能基量とが近くなるような誘導体化条件を設定し、吸着サイトとして働く水酸基分布の推測を試みる。仮に水酸基の定量が難しい場合においても、誘導体化されにくい部位などは吸着サイトとして働きにくいと予想されるため、誘導体化の反応時間と可視化された水酸基分布の変化を検討する事で、吸着サイトとして働きやすい官能基の部位を推定できるのではないかと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
育児休暇を3カ月取得した事が原因で、学会への参加回数が減少した。また、本研究で取り組んでいた、炭化物中の官能基の可視化法の確立が、当初の予定よりも短い期間で実現できた。これは、当初実験に必要であると想定していた試薬量よりもかなり少量で検討を終える事が出来たという事でもある。よって、実験計画通りに研究は進んでいるものの、当初の予定よりも費用が抑えられた事により、次年度使用額が生じたと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究では主にSEM-EDX分析をミクロスケールでの化学イメージングに利用している。他の表面分析手法による化学イメージングとの比較や検証が可能になれば、これまで開発してきた化学イメージング手法の信頼性が向上するだけでなく、検出が難しい官能基の可視化やより複雑な化学構造の可視化への発展が期待される。これにより、単独の官能基では説明が難しかった特定の金属イオンに対する強い吸着現象の解明が可能となり、高い吸着性能を持つ木炭の開発がより促進されると期待される。これまでに計画している研究への予算の使用額に変更がない場合、次年度使用額を用いて新しい木炭の化学イメージングに挑戦したい。具体的には、近接場赤外光を利用した分光装置による化学イメージングやToF-SIMSによる分子フラグメントの多変量解析を試したい。これらの運用に必要な消耗品費や出張費等に用いる予定である。
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