研究課題/領域番号 |
15K14776
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
山ギシ 崇之 成蹊大学, 理工学部, 助教 (60723830)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 木質炭化物 / フェノール性水酸基 / 吸着等温線 / セシウム / ストロンチウム / リグノスルホン酸 / 表面官能基 |
研究実績の概要 |
本研究ではこれまで、木質炭化物が吸着したセシウムイオンや水酸基の分布をミクロスケールで可視化した。その結果、セシウムイオンの吸着には官能基が重要である事が示唆され、特に従来よりも低温で炭化すると、炭化した中間層に残存するフェノール性水酸基が重要な吸着サイトである事が示唆された。しかしながら、これらのミクロスケールで見られた吸着挙動はバルクでの吸着挙動とどう関連しているのか明らかになっていなかった。そこで、当該年度では異なる温度で調製した炭化物を用いてセシウムイオンの吸着量の違いを検討した。その結果、本研究で調製した炭化物では500℃処理でセシウムイオンの吸着量が高いが、300℃処理は700℃処理とあまり変わらない事が判明した。一方で、滴定による表面官能基定量からは300℃処理でフェノール性水酸基量が最大であった。これまでの研究成果を踏まえて考えると、木質炭化物は処理温度によってその吸着メカニズムを大きく変え、それぞれの温度処理で主要な吸着機構が変わったと予想される。また、フェノール性水酸基などの単独の官能基量は吸着性能を推測する上での一要因でしかなく、本来の吸着性能の指標となる強い吸着性能を有する官能基量の特定やその定量が今度必要ではないかと考えられた。 ここまでの研究成果から、強い吸着性能を有する官能基を著量有する木質試料を金属イオン吸着剤として適用する事が重要ではないかと考え、リグノスルホン酸を用いた検討も行った。その結果、セシウムイオンの吸着量はかなり低い一方、ストロンチウムイオンに対して極めて高い吸着性能を有している事、アルカリ性下で溶解したリグノスルホン酸が、ストロンチウムイオンの添加により沈殿する事を確認した。これらの結果から、リグノスルホン酸のスルホ基がストロンチウムイオンを強く吸着し、不溶性の沈殿物を形成するのではないかと推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者の異動による環境の大きな変化により、研究に遅れが生じている。例えば、吸着サイトとして働く水酸基分布の可視化を実現するための検討に時間が掛かっている。しかしながら一方で、上述したように本研究に派生した興味深い研究成果も得られており、新しい研究の展開も期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では引き続き、吸着サイトとして働く官能基分布の可視化と定量を実現するための検討を行う。しかしながらこれまでの研究成果を踏まえると、木質炭化物のイオン交換に関係する吸着性能を評価するためには、より強い吸着性能を有する官能基の特定と、それらの分布の可視化及び定量が、本研究課題の遂行上必要ではないかと考えられる。そこで、金属イオンを捉える能力の高い化学構造、例えばカテコール型構造など、より複雑な官能基についての木質炭化物中の分布の可視化や、定量についての提案を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の異動による環境の大きな変化により、計画通りに研究費を使用する事が難しかった。
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次年度使用額の使用計画 |
従来計画していた、木質炭化物中の官能基の可視化や定量法を開発するための消耗品の費用としてまず用いる予定である。また、現在在籍している研究室で用いる事が可能になった、近接場赤外光を利用した分光装置による化学イメージングや、飛行時間型二次イオン質量分析装置(ToF-SIMS)を用いた分析を行う予定である。そのために必要な消耗品費や、これまでの成果の論文製作の為の費用、及び研究発表のための出張費等に用いる予定である。
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