本研究ではこれまで、木質炭化物の吸着サイトとなる官能基分布の可視化や定量法について検討してきた。従来よりも低温で調製した木炭では中間層であった領域で水酸基が多く存在する事が示唆され、低温で調製した木炭の吸着性能に関連する知見は得られた一方で、実際の吸着性能については未検討であった。そこで今年度は、異なる温度で調製したコナラ木炭の吸着性能について検討した。その結果、官能基が豊富に存在する300℃よりも官能基量が激減した500℃処理で高い吸着性能を有する事が判明した。また500℃処理木炭で固体試料では珍しく自由水酸基に関連する赤外吸収が顕著であった。この事から、木質炭化物に存在する自由水酸基がセシウムイオンの強い吸着に関わる事が示唆された。自由水酸基を有する木質炭化物中の化学構造について探索する必要があると考え、飛行時間形二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により検討した。得られたデータを主成分分析する事で、吸着に関連する重要な質量ピークを探索したところ、寄与率の低い主成分の負荷量上位で高質量ピークが見られた。確認された高質量ピークが木質炭化物の吸着に関係する化学構造であるとすると、利用上あるいは分析上においてその量を十分に増大させる必要があると考えられる。今後、自由水酸基がより豊富な木質炭化物を調製する事で、吸着に重要な化学構造の同定と分布を可視化する事に繋がり、高い金属イオン吸着性能の詳細な発現機構が明らかになると考えられる。
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