リグニンは、木材の主要成分の一つであり、モノマー単位が様々な単位間結合でつながった非常に複雑な構造をしている。ケナフなどの非木材繊維リグニンは、木材リグニンと異なり、アセチル基やp-クマロイル基などによりγ位がアシル化された構造が多く存在しており、木材リグニンと比べてβ-O-4構造の割合が約90%と非常に高いことが知られている。リグニンの部分構造であるβ-O-4構造は、難分解性のリグニンの部分構造の中でも比較的反応性が高く、パルプ化の際の脱リグニン反応や、バイオマスリファイナリーにおけるリグニンの低分子化による有用ケミカルの生産などにおいて、カギとなる重要な構造である。 本研究では、モノリグノールのγ位にアセチル基やp-クマロイル基などの電子吸引性のアシル基を導入して、モノリグノールラジカル同士の静電相互作用を抑制することにより、モノリグノールの重合反応を制御することを目的としている。本研究の進展により非木材繊維リグニンのβ-O-4構造量が非常に多い理由の解明にもつながると考えられる。本年度は、まずシナピルアルコール-γ-p-クマレートの合成を行い、さらに、その酸化カップリング反応を検討した。シナピルアルコール-γ-p-クマレートは、シナピン酸およびp-クマル酸を出発物質として、それぞれアセチル化後、合計6段の反応で合成した。シナピルアルコールγ-p-クマレートにはシナピルアルコール部分とp-クマレート部分の両方に酸化反応の起点となるフェノール性の水酸基が存在している。酸化銀を用いたシナピルアルコールγ-p-クマレートの酸化カップリング反応では、反応生成物のHSQC NMR測定により、p-クマレート部分ではなく主にシナピルアルコール部分で反応していること、β-O-4構造を持つオリゴマーが生成していることが示唆された。
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