木材害虫として知られるシロアリは、大顎を使って様々な行動を行う。我々はこれまでにシロアリ大顎における微量金属の局在を報告している。本研究ではシロアリ大顎に強靱な耐久性を付与するメカニズムを解明すべく、今年度はシロアリの有翅虫とニンフ、兵蟻への分化過程における金属キャリアタンパク遺伝子の発現を比較するとともに、餌となる木材の耐摩耗性を、マイクロスラリージェット(MSE) 法を適用して評価した。 一般にシロアリは辺材部の特に細胞壁が薄い早材部を選択的に食害することが知られる。MSE法によりスギ辺材の早材と晩材の耐摩耗性を評価した結果、晩材が早材の約10倍高い値を示すこと、ヤマトシロアリならびにアメリカカンザイシロアリの(擬)職蟻の大顎とスギ晩材が同程度の耐摩耗性を有することなどを明らかにした。 全期間の研究を通じて、微量金属が局在している大顎の歯先部分の耐摩耗性、耐衝撃性と比較して、微量金属が集積していない脱皮直後では、耐摩耗性が約1/7程度であることなどが明らかとなった。このことから例えば木材中で一生を終えるアメリカカンザイシロアリであっても、木材中に微量しか含まれないマンガンや亜鉛を選択的に蓄積することにより、強靱な大顎を形成して木材を摂食できるというシロアリにとってのメリットがあると考えられる。シロアリが木材を栄養として造る大顎を模倣した高耐久性機能材料の開発に繋がるよう今後も検討を進めていきたい。
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