研究課題/領域番号 |
15K14780
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
池島 耕 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 教授 (30582473)
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研究分担者 |
足立 亨介 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (00399114)
今 孝悦 筑波大学, 生命環境系, 助教 (40626868)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | デトリタス / 赤外分光分析 / 組成解析 / 起源物質 |
研究実績の概要 |
様々な生物の遺骸や排泄物を起源とするデトリタスは,腐食連鎖を通じて多くの水産資源の生産を支えると考えられているが,それを構成する成分やその変化はほとんど不明のままである。これまで脂肪酸マーカーや元素安定同位体比解析によりデトリタス起源となる一次生産者の割合を定量的に推定した例はあるが,動物やその排泄物,さらにバクテリアなど含むデトリタステの組成を捉えることはできず,依然ブラックボックス的な扱いにとどまっている。そこで、本研究は,フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)を用い,デトリタスを構成する有機物および起源物質の組成を,定性・定量的に計測する方法の確立を目指している。初年度の結果を踏まえ、デトリタスの起源となる植物質,動物質の種類をさらに増やし,赤外吸収スペクトルを計測し,FT-IRによってどの程度種類の区別がつくか検討を進めた。また、全反射吸収法(ATR)に加えて、KBr錠剤を用いた透過測定法と顕微ATR法による微細スケールの測定も行い,その有効性を検討した。透過法は,観察標本が赤外光が十分に通過できる粉体である場合、最も明瞭なスペクトルが得られるとされるが、植物プランクトンでは透過法ではATR法よりも多くのピークが観察される場合がある一方、ノイズが大きい場合や、また植物片などではスペクトルが乱れることもあり,組成(特に構成粒子の大きさ)の異なるデトリタス標本によって,どちらが適しているか異なると考えられ、今後さらに検討が必要である。植物と動物質を混合した標本から得られたスペクトルを既存のデーターベースに基づき解析ソフトウェアにより混合物推定を行うと、動物質と植物質が構成物質として推定され、bulk解析で起源物質の構成をある程度推定できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,初年度に予備的な解析によりデトリタス分析へのFT-IRの有効性を検討と,反射法、透過法、ATR法からより適切な測定方法を検討し,さらに,既存の抽出法による物質同定との比較にすることを予定していたが,その一部は本年度に持ち越した。本年度は,観察対象の生物試料の種類を増やしデトリタスの構成物質の区別への有効性をさらに検証し,また、反射法、透過法とATR法の比較を行い,透過法とATRには、それぞれがやや異なる条件のデトリタスにより適していることが示唆されたが、その条件についてはさらに検討が必要である。 また, ATR法測定データ基づいたbulk解析により,構成成分を推定できる可能性が示唆されたが,その定量性については,解析ソフトウェアを導入してさらに検討することが必要である。顕微ATRによるサブサンプリング/マッピング解析については、機器の制約により予備的な解析にとどまっているが,本年度行った観察から,観察試料の固定などに工夫が必要であるが,有効なスペクトルデータが得られることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度と本年度で,デトリタスの構成物質と分解過程の分析にFT-IR法が有効である見通しを得ることが出来た。スペクトルから標本が植物質か動物質か,またはその混合物かを読み取ることがある程度できた。また植物質でも,例えばケイ素を多く含む植物プランクトンとセルロースを多く含む落葉起源物質などは判別できる一方,タンパク質は動物由来でも植物由来でもそのペクトルは非常に似ており,他に特徴的な成分が少ない場合や、デトリタスとして分解が進んだ場合に,判別が難しくなる可能性もある。今後は,既存の溶媒抽出とGC,GC/MSによるデトリタスと起源物質の成分分析を行い,FT-IRの波形から示唆される構成成分を比較し、物質判別に有効な吸収スペクトルの探索を行う。Bulk解析における構成物質の構成比について,比率を変えた混合サンプルを作成し、また、IR解析ソフトウェアを導入し定量性を検討する。また、顕微ATRの標本固定法を決め、bulk解析との比較を行う。これらの測定条件の検討と合わせて、野外のデトリタス標本の解析を行い,FT-IRによるデトリタス分析法の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
分析条件の検討と培養標本の用意について当初の予定よりやや時間がかかったことと,顕微ATR測定、GC/MS分析等の機材の制約により一部の消耗品の購入,機材使用の経費の支出が遅れたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度はFT-IRの結果と参照するためのGC/GC MS による標本の成分分析を行い,また,学内での機器が利用できない顕微ATRについて,学外施設の機器使用(有料)による分析を進める予定である。
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