研究実績の概要 |
デトリタスは腐食連鎖の栄養源として多くの水産資源の生産を支えると考えられているが, それを構成する成分やその変化は,ほとんど明らかにされていなかった。脂肪酸マーカーや元素安定同位体比解析により,デトリタスの 起源となる一次生産者の割合を定量的に推定した例があるが,一次生産者だけでなく,それを食べた動物やその排泄物,さ らにバクテリアを含んだ混合物であるデトリタスの組成を捉えることはできず,デトリタスは依然,ブラックボックス的な扱いにとど まっている。本研究では,フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)をデトリタスの分析に応 用し,これまでブラックボックス的に扱われてきた,デトリタスを構成する有機物および起源物質の組成を,定性・定量的に計測する 方法の確立を目指している。 本年度は、前年度までの結果を踏まえ、bulk解析で起源物質の構成を比を推定法を検討するため,デトリタスの起源となる植物質,動物質の混合比や分解条件を変えたサンプルを作成した。さらに,デトリタスを摂食するとされる動物(カニ類など)の胃内容物採集と観察標本の作成,さらに,実際のフィールドのデトリタスの試験的な分析を行うためのサンプル採集とその処理方法を検討した。 これまでの測定条件の検討で,FT-IRによるデトリタスの測定においては,ノイズの少ないスペクトルデータの取得が可能であるが,顕微ATR法によるマッピングは,デトリタス標本に含まれる鉱物粒子等の硬い物質がATRプリズムを破損する恐れがあり,機器の使用が制限されることが分かった。デトリタス(有機物)と鉱物粒子の比重の差を利用した遠心分離等による前処理が有効と考えられた。遠心分離はbulk解析でも鉱物粒子の吸収を除去することができ,有効と考えられるが,デトリタスを効果的に分離する条件について,さらに検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,遠心分離による鉱物粒子等の観察を妨げるデトリタス以外の物体を取り除く前処理法の確立を早急に行う。また,既存の溶媒抽出とGC,GC/MSによるデトリタスと起源物質の成分分析を行い,FT-IRの波形から示唆される構成成分を比較し、物質判別に有効な 吸収スペクトルの探索を行う。スペクトル解析ソフ トウェア・多変量解析ソフトにより,Bulk解析の構成物質の構成比の定量的推定を行う。また、前処理法によって顕微ATRが行えれば顕微ATRによるマッピング測定を行う。顕微ATR観察の条件が整わない場合は,反射測定もしくは透過測定法によるマッピングかサブサンプリングによる顕微FT-IR観察を行い,bulk解析との比較を行う。これらの測定条件の検討と合わせて、前年度に検討したフィールドのデトリタス標本の採集,処理法に基づいた標本の解析を行い,FT-IRによるデトリタス分析法の確立を目指す。
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