我が国で消費されるニホンウナギは,陸岸域に来遊した天然の稚魚(シラスウナギ)に依存した養殖によって担われている.近年,そのシラスウナギの漁獲量は激減し,社会的に大きな影響を与えているが,漁獲量変動の理解に重要なシラスウナギの接岸機構については明らかにされていない.そこで本研究の目的は,シラスウナギの接岸回遊には海洋環境を効果的に利用するメカニズムがあるとの作業仮説を立て,物理環境と行動特性に基づく多面的アプローチによりシラスウナギの接岸機構を解明することとした.本年度は,浜名湖における長期のシラスウナギ漁獲量及び物理環境データを用いて,昨年度の解析結果をさらに発展させると共に,昨年度構築したシラスウナギ接岸回遊モデルに行動を組み込んだシミュレーションを実施し,接岸回遊に関する理論的検討を行った.まず漁獲量・物理環境データ解析では,浜名湖における漁獲量と黒潮離接岸の指標との間に有意な相関があることが明らかになった.また,接岸回遊モデルの結果から,シラスウナギの分布水深が深い場合は,分布水深が浅い場合と比較して,本生物が黒潮から離脱して内側域に来遊する割合が増加すると推測された.以上から,シラスウナギは,沿岸域への加入過程において黒潮の接岸を利用すると共に,本生物の鉛直行動が接岸効率を向上させる役割を果たしている可能性があると考えられ,ニホンウナギの持続的利用に必要なシラスウナギの接岸機構の解明に重要となる知見を得た.
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