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2015 年度 実施状況報告書

粘液の安定同位体比分析で食性変化や移動をタイムラグなく把握する技術の確立

研究課題

研究課題/領域番号 15K14792
研究機関龍谷大学

研究代表者

丸山 敦  龍谷大学, 理工学部, 講師 (70368033)

研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2017-03-31
キーワード粘液 / 安定同位体比 / 魚類
研究実績の概要

被食捕食関係の情報は生物資源管理や生態系機能保全の基礎となる。安定同位体分析は、従来より被食捕食関係を把握するための強力な手法として広く認められている。ただし、食物網を動的に捉えることの重要性に鑑み、従来の安定同位体分析より時間スケールの短い指標が求められる。そこで、本研究計画では体表粘液を安定同位体分析に用いることを提案する。提案に説得力を与えるため、(1)濃縮係数と置換速度を複数魚種で示して応答の早さの一般性を示すこと、(2)非致死的な粘液採取法を確立すること、の2つを初年度の到達目標に掲げた。
体表粘液の同位体比の濃縮係数と置換速度を求める実験は、岐阜県水産研究所と龍谷大学の飼育施設において計4系統を立ち上げた。うち1つは解析まで完了し、国際誌に投稿中である。2つは大方の飼育と分析が終了している。1つは立ち上げたばかりである。これらの飼育実験から、複数魚種の濃縮係数と置換速度が算出されつつあり、粘液の安定同位体比の置換速度が速いことは、魚類に一般的であることは結論づけられそうである(上記1)。置換速度がどのような要因によって左右されるかについての知見も、実験を重ねるごとに蓄積されつつある。
反復採取の可能性と(上記2)、反復採取が置換速度に及ぼす影響については、ブルーギルを用いた飼育実験によって検証するつもりであった。平成27年度は小型個体の採取に失敗したため、当初計画していた成果を得ることはできず、代替の実験(上記の1つ)を行うこととした。平成28年度には、計画通り試供魚が入手できるものと見込んでいる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

岐阜県水産研究所(岐水研)の協力を得て実施されたフナとナマズの同位体置換実験(平成27年度初期に完了)では、成長が遅く筋肉の同位体比がほとんど変化しない魚においても、粘液の同位体比が有意に変化することを示すことが出来た。前例のない知見として、国際学術誌「Ecology of Freshwater Fish」に投稿中である。
岐水研の協力を得て進行しているカワムツ、アブラハヤ、モツゴ、メダカの同位体置換実験(平成27年夏より開始)では、粘液、筋肉、鰭、肝臓の同位体分析が半分終了した。餌切替(11月)前の成長が芳しくなかった一部の水槽を除いては、既存データ範囲内の濃縮係数が切替時のサンプル分析結果より算出されており、これを受けて、成長が良好な試供魚の飼育と分析が継続されている。
当初より計画していたブルーギルの飼育実験は、粘液の反復採取頻度が同位体変化速度に及ぼす影響を検証するためのもので、本計画の中心的な内容の1つであるが、小型個体の入手に失敗したため、平成27年度には実行しなかった。外来生物法との兼ね合いもあって安易に実験計画を微修正することはせず、平成28年度に実施することとした。代わりに、下記のオイカワとカワムツの幼魚を用いた実験を行った。
オイカワとカワムツの幼魚を用いた同位体置換実験(平成27年9月より開始)は、平成28年5月下旬に終了する。サンプルの大半は同位体分析も終了しており、仮解析では想定通りの経過が観察されている。個体識別によって各個体の成長履歴が終えることが、前出の実験結果とは異なっており、個体ベースの詳細な統計モデル選択を行える見込みである。やはり、前例のない知見が得られている見込みである。
また、有用魚種であるウナギにおいて、反復採取の可能性、反復分析結果の安定性を示すための予備実験を開始した。

今後の研究の推進方策

フナとナマズの同位体置換実験の結果は、成長の遅い魚の粘液と筋肉の同位体比変化を示す貴重な情報として国際学術誌に投稿中である。査読結果を待ち、掲載への努力を継続する。
カワムツ、アブラハヤ、モツゴ、メダカの同位体置換実験は、平成28年4月末に終了する。粘液、筋肉、鰭、肝臓の同位体分析が半分が終了しており、飼育実験終了とともに残る分析を行う。組織間の置換速度および濃縮係数を比較解析し、論文として公表する。
オイカワとカワムツの幼魚を用いた同位体置換実験は、平成28年5月下旬に終了する。サンプルの大半は同位体分析も終了している。個体ごとの成長履歴が把握できるこの実験の結果は、時間を主要因にした解析と体重変化(成長)を主要因にした解析を行い、説明力の高い統計モデルを模索する予定である。本研究計画の中心的成果の1つとして、論文を執筆する。
平成28年度に新たに始める実験としては、当初より計画していたブルーギルの飼育実験を行い、粘液の反復採取頻度が同位体変化速度に及ぼす影響を検証する。この実験は、置換速度を人為的に速める手法を提案することにもなりえるもので、本研究計画のもう1つの中心的成果として位置づけている。
この他に、生体から採取された粘液と冷凍魚体から採取された粘液の同位体比の比較、ウナギなどの水産有用魚種への反復分析の適応可能性の確認、サンショウウオなどの魚類以外の希少水生生物への反復分析の適応可能性の模索を行う計画がある。
本研究計画の主目的は粘液の安定同位体比分析の有用性を示すことであり、上記の進捗と計画によって目的の大半は果たされる見込みである。発展的な目標として掲げていた、複数部位の分析による食性履歴分析法の確立についても、挑戦できるかもしれない。

次年度使用額が生じた理由

当初計画していたブルーギルを用いた実験を、カワムツとオイカワを用いた実験に切り替えたため、差額が生じた

次年度使用額の使用計画

当初計画していたブルーギルを用いた実験を次年度に行うことで、消費される

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Techniques for the practical collection of environmental DNA: filter selection, preservation, and extraction2016

    • 著者名/発表者名
      Minamoto, T., Naka, T., Moji, K., and Maruyama, A.
    • 雑誌名

      Limnology

      巻: 17 ページ: 23-32

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Environmental DNA as a ‘Snapshot’ of Fish Distribution: A Case Study of Japanese Jack Mackerel in Maizuru Bay, Sea of Japan2016

    • 著者名/発表者名
      S Yamamoto, K Minami, K Fukaya, K Takahashi, H Sawada, H Murakami, S Tsuji, H Hashizume, S Kubonaga, T Horiuchi, M Hongo, J Nishida, Y Okugawa, A Fujiwara, M Fukuda, S Hidaka, KW Suzuki, M Miya, H Araki, H Yamanaka, A Maruyama, K Miyashita, R Masuda, T Minamoto, M Kondoh
    • 雑誌名

      Plos One

      巻: 10 ページ: e0149786

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0153291

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Quick change in δ15N values of fish mucus confirmed in the field using a migratory goby2015

    • 著者名/発表者名
      Maruyama, A., Shimonaka, H., and Ito, T.
    • 雑誌名

      Ecology of Freshwater Fish

      巻: 24 ページ: 162-164

    • 査読あり
  • [学会発表] Change in stable isotope ratios in the epidermal mucus of slow-growing fish2016

    • 著者名/発表者名
      Maruyama A, Tanahashi E, Hirayama T, Yonakura R
    • 学会等名
      日本生態学会
    • 発表場所
      仙台国際会議場
    • 年月日
      2016-03-20 – 2016-03-24

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公開日: 2017-01-06  

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