生物資源管理や生態系機能保全の基礎となる被食捕食関係の情報を得る上で、安定同位体比分析は重要な役割を果たしてきた。ただし、食物網構造の時間的変異の理解を深める必要に対し、従来の安定同位体比分析よりも時間スケールの短い指標が求められる。本研究では、体表粘液の安定同位体比分析を提案し、(1)安定した濃縮係数、(2)早い置換速度、(3)非致死的な粘液採取の可能性、の3つが一般的であることを示すべく、飼育実験によるアプローチを行ってきた。 初年度、次年度に開始した計7系統の実験は、2つが国際学術誌に、1つが和文学術誌もい受理され、残りは投稿準備中である。これら7系統7魚種すべてで、(1)安定的な濃縮係数、(2)早い置換、(3)生体からの反復採取が可能であること、が確認出来た。すなわち、計画当初の目論見はすべて達成でき、その成果は着々と公表されている。 今年度は、効率化で生じた残予算によって発展的に立ち上げた飼育実験の完了のために、研究期間を1年延長して本研究を継続させて頂いた。実験および分析は予定どおりに完了し、現在は統計的な説明モデルを提案する論文を執筆中である。このモデルは、成長速度だけをインプットすることで代謝の影響を加味した同位体比置換速度の予測ができる可能性がある興味深いものである。この他、サンショウウオへの応用についても成果が出ており、この成果を活用して非侵襲的に野外のサンショウウオの生態的地位を種間比較する協働研究が、科研費基盤Cとして2018年度から開始されている。
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