本研究は、バイオロギング手法によって取得された海洋動物の生態情報を衛星経由で遠隔的に取得するために、捕食行動等の重要な生態情報を衛星でのデータ伝送が可能な容量まで効率的に集約する手法を開発することを目的としている。近年、海洋動物の行動解析によく用いられる加速度・ビデオ記録はデータ容量が膨大であり、連続的に取得されたデータを衛星経由で伝送することは難しい。また、データ容量が膨大となるため、記録期間が加速度データでは数日、ビデオデータでは数時間に限られるという制約があった。本研究では平成27~28年度にかけて、加速度記録から捕食行動をイベントとして抽出することでデータ容量を圧縮し、またイベント発生時にビデオ記録を開始する小型加速度・ビデオ記録計を開発した。またこの記録計を米国カリフォルニアで繁殖するキタゾウアザラシにテスト装着・回収する野外調査を実施し、得られたデータの解析を行い記録計の設定についての検証作業を行った。加速度データからイベントを抽出し、イベントの発生頻度のみを記録するアルゴリズムを記録計本体に搭載した結果、捕食行動の頻度を約2ヶ月にわたる回遊の全期間について記録できることが明らかとなり、さらに照度等の新たなパラメータを記録することも可能であることが分かった。またビデオについては捕食のイベント発生時に記録を限定することで、最大2週間程度にわたる捕食行動時の映像データの取得が可能になった。またこれらの記録から、キタゾウアザラシの餌の8割が魚類で占められており、主な餌は頭足類であるという従来の仮説を覆す結果が得られた。本研究で開発に取り組んだ加速度データから生態イベントを抽出する手法は捕食以外の行動にも適用が可能で、また様々な種で利用可能であり、衛星経由で海洋動物の生態情報を取得する上で今後重要な役割を果たすと考えられる。
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