本研究の最終目的は、卵に特異的に発現する受容体を標的として、親魚から卵・仔魚へ世代を超えて様々な有効物質を輸送することのできる、分子輸送システムを開発することである。試験期間内の到達目標は、遺伝子組換え技術によるモデル分子輸送体の生体内生産に挑戦し、将来的に同輸送体を大量生産する生物工場(バイオリアクター)開発に向けた萌芽的技術基盤を得ることである。この目標を達成するため、H27-28年度では、卵母細胞への輸送能を持つと推定されるビテロジェニン分子上の受容体結合部位(VRBP)を2種類、蛍光蛋白質を2種類、リンカーを1種類、遺伝子組換え導入システムを2種類を組み合わせて発現コンストラクトを作製し、複数の組換えメダカ初世代(F0)を作出した。最終年度(H29)では、VRBPと蛍光蛋白質(mCherry)あるいはVRBPとリンカー(単量体アビジン:mSA)の融合蛋白質を発現する組換えF0親系統から、第2世代(F1)と第3世代(F2:VRBP/mCherryのみ)を得た。その結果、VRBP/mCHerry組換えメダカF2胚(受精卵)において微弱ではあるが赤色蛍光が確認できた。これらの成果より、到達目標である遺伝子組換え技術によるモデル分子輸送体のうち、少なくとも蛍光輸送体の生体内生産が確認された。また、推定VRBPが機能的であることが示唆された。一方、F2での蛍光性が低いという結果は、組換え蛋白質の生産性が低いことを示している。そのため、リンカー付き輸送体(VRBP/mSA)組換えメダカを用いて輸送体機能試験を遂行するには、新たにプロモーター変更による生産性の向上が必須と考えられた。本試験ではVRBP/mSA組換え系統(F1)作出に成功したことを以て計画を終了し、今後同輸送体の大量生体内生産に向けた新たな試験系の確立に有効な知見を得た。
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