Fucci2細胞は、細胞周期のステージの変化に伴い核内に発現する2種類のタンパク質を蛍光ラベル化したもので、これを用いれば分裂中の細胞が細胞周期のどの段階にあるのかを、経時的に観察できる実験系である。海産無脊椎動物の抽出物とFucci2導入HeLa細胞を用いて、細胞周期を特定の段階で停止させる化合物の探索を行った。八丈島北方の海丘で採取されたカイメンLipastrotethya sp.の抽出物を二層分配、ODSフラッシュクロマトグラフィー、およびODS HPLCを用いて精製し、2種類の活性物質dragmacidin Gおよびdragmacidin Hを単離した。これらの化合物は、細胞周期を特定の位置で止めることなく、HeLa細胞の増殖を抑制した。Dragmacidin Gの分子式は高分解のESIMSからC23H20Br2N7Sと決定された。1次元NMRおよびHSQCスペクトルから部分構造を導き、HMBCスペクトルによって、それらの結合様式を明らかにした。3置換ピラジン環の存在は、15N-HMBCスペクトルの解析により導いた。最後に残された硫黄原子の位置は、NMRデータの化学シフト値を既報のデータと照合することにより決定した。Dragmacidin Hはdragmacidin G中の臭素原子のうちの1つが水素原子で置換された構造と決定した。また、ウデフリクモヒトデから、新規細胞毒性物質のcuracin Eを単離、構造決定した。さらに、別種カイメンから細胞周期をG2/M期で特異的に停止させるテルペン誘導体を2種類取得し、それらの構造決定を行った。
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