海綿動物は1000属以上の微生物が共生しているという研究報告があり、体内に巨大な微生物共同体を構築していることが推測できるが、微生物の共生経路の詳細は不明である。また、海綿動物の共生微生物の中には、有用な生物活性を示す二次代謝産物を生産する種が含まれると考えられていることから、化合物を大量に生産し有効活用するという技術開発の過程で、海綿動物と微生物の共生機構を理解することは重要である。このような背景のもと、本研究では海綿動物-微生物の共生関係を包括的に明らかにするため、海綿動物におけるモデル生物を確立することを目指し、研究をおこなっている。 昨年度までは、海綿動物の幼生をシャーレに着底させ、様々な飼育環境で生育せることに成功したものの、1)閉鎖環境における個体の成長が遅い、2)幼生の生存率が低い、などの問題が明らかとなった。本年度も、昨年度と同様の手法により、安定的な実験の実施を達成するとともに、様々な条件検討をおこなうことで、幼生の生存率をあげる手法の取得に成功した。また、海綿動物における化合物生産という観点からも新たな発見をすることができた。このように、本研究課題により、海綿動物と共生微生物の共生機構を明らかにする基盤が確立できたと考えている。現在、詳細な共生機構を明らかにするため、様々な実験を開始している。ただし、閉鎖環境における個体の成長が遅いという問題は解決できておらず、さらなる検討を重ねる必要がある。
|