養殖アワビでは産卵期の成長遅延や、排卵障害による大量斃死が起こることが知られている。本研究では、RNA干渉法による不妊化アワビの種苗生産するための基盤技術の開発を行った。まず、RNAシークエンス法による網羅的遺伝子発現解析を行い、クロアワビの受精卵に母性RNAとして存在し、生殖細胞の発生に関与すると予想される候補遺伝子を抽出した。候補遺伝子について、RT-PCRおよびin situ hybridization法を用いて、アワビの各体組織および初期胚における詳細な発現解析を行った。続いて、近年、海産無脊椎動物への適用例が多数報告されているRNA干渉法に着目し、アワビの初期胚内で生殖細胞の発生に必須な母性因子を一時的に消滅あるいは減少させた状態で発生させる技術の最適条件を決定した。ノックダウンの標的遺伝子として、エゾアワビの生殖細胞で発現するvasa遺伝子を選定した。vasa遺伝子に対する約300bpのdouble strand RNA (ds-RNA)を合成し、産卵直前のアワビ卵巣へ注入した。double strand RNAには、あらかじめDIG標識を施し、注入後のds-RNAの挙動を調べたところ、注入後3時間以降で、卵母細胞内に移行することが明らかとなった。さらに、このアワビを産卵させることで、受精卵内で母性vasa mRNA量を減少させることに成功した。これらの受精卵は、正常に成長することを確認したが、生殖細胞欠損の表現系を示すかについては、現在継続して調査を行っている。本研究の前半部分についてはMarine Biotechnologyに受理された。
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