研究課題/領域番号 |
15K14803
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山本 直之 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80256974)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 視覚系 / 中枢神経 / 真骨魚類 |
研究実績の概要 |
真骨魚類の視覚系に関しては、網膜の形態や生理学的特性、および網膜から脳への投射先について、それなりの研究が積み重ねられている。しかしながら、中枢の視覚回路がどのようになっているのか、また視覚中枢の生理学的な特性がどのようであるのか、については極端に知見が不足している。本課題では、視覚に依存して行動する傾向の強いマハゼを研究対象として、中枢神経回路や視覚中枢の生理学的特性を調査することを目的としている。中枢神経回路についてはかなり研究が進捗してきた。かなりの精度で存在が確認できた神経回路については、学会で報告し、また現在論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の土台となる情報である網膜から脳への投射先については、神経トレーサーを用いた神経回路追跡法により調査をすでに終了している。最大の視覚中枢である中脳の視蓋から間脳の糸球体前核群に属する前視床核への投射があること、さらに前視床核から終脳(大脳)の背側野(哺乳類終脳における外套に相当)へ投射があることをつきとめた。これは当初設定していた目標のうち大きなもので、初年度で達成された。終脳にいたる上行路の存在はわずか数種の魚種でしか報告されておらず、有意義な知見であるため、現在論文を作成中である。さらに、視蓋から前視床核への投射は、視蓋の深層に細胞体をもち、網膜投射が終わる視蓋の浅層に樹状突起を伸ばすタイプのニューロンから発することもわかってきた。これも当初設定していた目標の1つである。このようなニューロンタイプまで突き止めた報告はこれまで2種でしかないので、これについてももっとデータを増やし、論文としたいと考えている。ただしマハゼは思ったより外科的操作に弱いことも明らかになってきた。視神経投射の研究時には問題にならなかったが、脳へのトレーサー投与実験のために頭部を外科的に処置すると、死亡や脳組織の変性がしばしば起こる。そのためデータ数がなかなか増やせないという問題があり、他種の使用についても考慮すべき可能性がある。 また特定の視覚刺激に応答する視覚中枢がどこなのかを調査するために、神経活動マーカーを用いた実験を最近開始した。まだ予備的な段階であるが、上記の神経トレーサーを用いた神経回路追跡法により明らかにした視覚中枢と思われる場所に、視覚刺激に応答して発現が誘導される可能性がある結果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
間脳の前視床核から終脳の背側野への投射は、これまでに報告されていた魚種と異なり、幾つもの場所にいたることを示す結果が得られつつある。また、課題開始以前からマハゼの終脳は複雑な構成になっていることは認識していたが、想像以上に複雑であることが判明した。そのため、当初は予定していなかった、Nissl染色連続切片の綿密な観察を行った。代表者は多くの魚種の脳についての知識があるが、解析は難航し、最近になって理解のめどがたち、簡易的アトラスを作成した。それも参考に今後の解析を続ける。本課題は電気生理学的解析も目的としているが、知り合いの専門家から、形態学的に十分な情報がないと実験は行いにくく、結果の解釈も困難であるとの意見を受けた。そこで、前視床核から終脳背側野への投射先の確定と、複数ある投射先がどのような連絡をしているかのデータを得るも行う。神経回路について形態学的な土台を確立した上で、電気生理学に進む予定である。 神経活動マーカーを用いた実験は開始したばかりであるが、現時点で得ている予備実験データはこの実験の継続の有用性を示唆している。今後手法を確立したのち、特定の刺激に絞った刺激実験を行う予定である。今後、残された1年間で研究を有効に推進する必要がある。配分額では電気生理学に必要な物品を揃えられない状況である。なんらかのルートで安価なものが入手できれば実施できる可能性は残されてはいる。可能であった場合は、現在は有望である神経活動マーカーを用いた実験がうまく行かないときは生理学に集中する、あるいは生理学的実験についても操作に弱いことが判明したり、マーカー実験が極めて有効であれば逆にこちらを中心に実験を行うなど、また神経回路の完全解析が重要な知見を効率的にもたらすのであればそちらに集中するなど、弾力的かつ有効な時間と資源の投資を行って、研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、生理学的実験までいたらなかったため、使用残額が発生した側面がある。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の計画で言及したが、今後もっとも効率的に実験を行うために弾力的な実験推進を行う。配分額で購入可能な電気生理学実験装置が入手できれば(可能となるのは年度後半以降となると思われるが)、そのために必要な使用額が大きくなる。100万円程度であれば、コンバーターボードとアンプを購入する(不可確定のため次ページの購入物品に具体的に記入はできないが)。一方、神経活動マーカー実験で使用を始めたが、それに使用する抗体がかなりの高額で、本格的に実験を開始するとこちらにかなり投資することになる。研究の進行状況と、集中して行う実験内容に合わせて、主に投資する対象は異なってくることが予想されるが、いずれにせよかなりの経費の必要性がある。
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