研究課題/領域番号 |
15K14806
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
池上 晋 慶應義塾大学, 自然科学研究教育センター, 訪問教授 (80011980)
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研究分担者 |
金子 洋之 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (20169577)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | トランスグルタミナーゼ |
研究実績の概要 |
棘皮動物イトマキヒトデは浮遊幼生期に微小藻類などを摂餌、消化・吸収して得られる栄養素を代謝して成長し、変態・着底した後、稚ヒトデとなる。これまで、クロマチン会合性タンパク質、Nuclear transglutaminase(nTG と略称)のモルフォリノアンチセンスオリゴ(MOと略称)を卵母細胞内注入したビピンナリア幼生はブラキオラリア幼生への移行期になって発育不全がもたらされることが明らかになっている。 本研究は、ビピンナリア幼生の餌生物消化、代謝の基本事項を明らかにすることを目的として行われた。まず、イトマキヒトデ幼生の好餌である海産珪藻 Chaetoceros gracilis の利用性について検討した。 13C標識重炭酸ナトリウムを含む f/2 培地中、閉鎖系で珪藻を20 ℃ で3日間、光連続照射で培養した。2日幼生に13C標識珪藻細胞を加え、7日間飼育し、海水で洗浄した後、1日間絶食飼育した。幼生を固定し、酸加水分解した後、生じたアミノ酸をピバロイル/イソプロピルエステル誘導体に変換し、ガスクロマトグラフ/同位体比質量分析によってAlanine の13C含有率を測定した。その結果、 α とβ 原子の少なくとも一つが13C であるAlanine 分子は全体の62%であった。また、nTG MO注入幼生でもこの値に大差はなかった。この結果は、nTG MO注入幼生では代謝経路よりも摂餌・消化過程に異常がある可能性を暗示した。 そこで、抗nTG抗体を用いて、nTG MO注入6日幼生に免疫組織化学染色を施した。その結果、外胚葉には染色像は認められないが、特徴的な細胞核外染色像が咽頭、食道、胃、腸、肛門の内壁に認められた。正常幼生にはこのような内胚葉特異的な反応は認められなかった。この予想外の抗nTG 抗体陽性タンパク質の出現が摂餌・消化阻害の原因である可能性が浮上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、nTG MO注入幼生において予想していた一次代謝異常の可能性が薄まり、むしろ、nTG 関連タンパク質の生成によってもたらされる餌生物の消化・吸収過程阻害の可能性が浮上したので、各発生段階のnTG MO注入幼生に広汎な免疫染色を施し、共焦点レーザー顕微鏡観察実験を重ねる必要が生じた。それによってもたらされた時間的な遅れはあったが、この判断は、より実りある好結果をもたらす追加実験であったと確信している。
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今後の研究の推進方策 |
イトマキヒトデ卵母細胞にnTG MOを顕微注入し、1-Methyladenine 処理によって成熟を誘起させ、受精させて生じた胚や、2~3日ビピンナリア幼生には、体内のどこにも抗nTG抗体陽性細胞は見出せない。今回、nTG MO注入6日幼生の内胚葉に見出された抗nTG抗体陽性の分子的解析と作用解析が愁眉の検討課題となった。したがって、これに向けたタンパク質科学的解析を進める。 また、nTG MO非注入対照幼生では5日目以降、繊毛帯に細胞核外域に大量の抗nTG抗体幼生シグナルが生成した。本研究で用いたペプチド抗体の免疫原はnTGタンパク質のN 末端に存在する核移行シグナルを含むペプチドであり、正常2日幼生での繊毛帯には細胞核外反応は認められない。したがって、発生進行とともになんらかの分子間相互作用が出現し、このようなnTG の核外移行を もたらしたものと考えられる。この過程についてもタンパク質科学的解析を加えてnTG の機能解明を図りたい。 さらに、本研究の中心的なテーマである幼生の栄養代謝をモニターするために、13C標識珪藻細胞の消化、13C標識分子の代謝過程を各発生段階で解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
閉鎖系で13C標識重炭酸ナトリウムを含む培地での珪藻珪藻 Chaetoceros gracilis の培養は安定せず、幼生への給餌実験に移行する余裕が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
今回、Chaetoceros gracilis に変えてChaetoceros calcitrans の培養を行い、予備実験で好成績を得ている。平成28年度は当初計画した給餌実験を Chaetoceros calcitrans を用いて行う予定である。
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