マウスやニワトリでは腸内細菌の腸上皮細胞への侵襲が成長に負の効果を示し、バンコマイシンなどの抗生物質の投与で成長が改善されることが報告されてきた。本研究では、魚類において腸内細菌の組成が成長に与える効果を検証し、魚類養殖においてプロバイオティクスによる生産性向上のための基盤整備を目的とした。配合飼料で育成したマダイ幼魚において、複数の抗生物質を飼料に添加し、腸内細菌の組成に強く影響する条件で2~3週間の飼育実験を繰り返した。その結果、いずれの実験でも有意な成長差は抗生物質不投与群との間で認められなかった。このことは、腸内細菌の組成の変化はマダイの成長に影響しないことを示唆している。さらに、バンコマイシンを400mg/kg混じた配合飼料を3週間にわたってマダイ幼魚に給与し体重と全長を比較したが、有意差は認められなかった。そして、実験魚の直腸内容物について、細菌の16S rRNAv3/4領域の解析により腸内細菌の組成を比較した。対照群では、フィルミクテス門に属する細菌が優占したが、バンコマイシン投与群ではフィルミクテス門に属する細菌がほとんど認められず、アルファプロテオバクテリア綱に属する細菌が90%以上を占めた。この結果は、腸内のグラム陽性菌を選択的に除去するバンコマイシンの効果が十分に発揮されたことを示すと共に、複数回繰り返した抗生物質投与実験の結果を支持するものである。したがって、抗生物質の投与による腸内細菌の組成の変化がマダイの成長に与える影響は限定的であると考えられる。魚類養殖においてプロバイオティクスにより成長を効率化するには腸内細菌の選択的除去よりも有効な細菌の添加が重要と考えられる。
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