本年度は,りんご,牛肉,長いもの香港における輸出者群と輸入者群の取引市場の分析をした。このことにより,その市場における日本との競合国,日本産と競合国産の価格差を明らかにできた。また,取引市場の傾向としては,3品目とも日本産は数量と金額ともに増加しつつあることを解明した。価格支配力を発揮するためには,取引交渉力と市場支配力の両方を発揮する必要があることはすでに前年度までの取引関数の理論分析により示されていたが,顕著な価格支配力の発揮は日本産牛肉の輸入者群から見られ,日本産のりんごと長いもについては価格支配力は発揮されていないという結果が得られた。日本産のりんごと長いもは,それら輸出者群の要する平均限界費用,かつ,それらの輸入者群の平均限界評価の水準に同等な適正価格により取引されている。他方,日本産牛肉の香港輸出によって得られる利潤は多くの輸出者においてマイナスであると推測され,そのような輸出者の取引交渉の改善によりその赤字を解消できる余地があると指摘できる。 このような分析は他の品目,他の取引市場にも適用することができる。また,取引関数の導入により売り手群と流通業者買い手群のどちらから価格支配力の発揮が有るのか否かを解明できる点,売り手群の要する平均限界費用かつ流通業者買い手群の平均限界評価に等しい適正価格を示すことができる点に本分析の特長がある。しかしながら,分析上の課題も残っている。それは市場支配力及び平均取引交渉力の発揮を推定した単回帰分析結果におけるダービン・ワトソン比が良好でないことであり,最適な推定に向けてその問題を解決することである。 その他,ベトナムメコンデルタにおける稲作農家の籾価格の設定及び農業所得への農業生産資材企業との契約の影響,稲作農家規模別の籾価格と農業所得の状況,唐辛子農家でのベトナムGAP導入の唐辛子価格と農業所得への効果を解明した。
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