研究課題/領域番号 |
15K14818
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
加藤 幸 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (40302020)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水田転作樹園地 / ブドウ / 排水対策 / 地下水位 / 農業ICT |
研究実績の概要 |
水田転換ブドウ園の排水対策とその課題について検討した.これまでの調査から,園地内の排水不良箇所付近が地形的に低く隣接水路や上流側水田からの浸入水の影響を受けやすいほか,土壌の透水性が大きく低下していることが明らかとなっている.そこで,2016年の春季に上流側水田の畦塗りと境界部の明渠の拡張を行い浸入水の遮断をはかった.加えて,園地中央の土水路にU字工を設置した.本年度の成果をまとめると以下のようになる. 1)地下水位は,降水に伴う増減はあるものの年間を通じ地表面下50cm程度で基本的に低かった.周辺水田の代かき・田植え期に上昇するものの,中干し期に低下した.周辺水田が深水管理を行う7月後半から8月末に大きく上昇し地表面下20cm程度に上昇した.深水が終了する9月以降は大きく低下した. 2)土壌水分は,4~7月前半にかけ春先の対策の効果により低下したが,深水管理が始まる7月後半から上昇し8月末まで高い状態が継続した.土壌の透水性が低下しているため,地下水位が低下した9月以降も土壌水分量はあまり減少しなかった.水ポテンシャルは8月中下旬はほぼゼロで,土壌がほぼ飽和状態にあった. したがって,調査園地の排水不良は周辺水田の深水管理により地下水位が上昇する時期に生じるといえる.2016年はこの時期の降水量が少なく過湿期間が短かったため湿害は見られなかった.2015年は深水が始まる時期に100mmを超す降水があり,長期に渡って地表付近が過湿となったため湿害を生じたと考えられる.排水改良策としては、圃場面と水路の高低差から暗渠の利用は困難である.また,土壌分布や面的な地下水の動きから,明渠の拡張で浸入水を制御することは難しい.そのため,排水不良が見られる付近にサブソイラを施用することで亀裂の発達を促し,地表付近で停滞している地下水を下流方向や排水の良い箇所に誘導することが有効と考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基本コンセプトである「農家との連携による農業ICTを用いた現場での課題解決」という観点から,初年度の原因究明調査の結果をふまえて協議し,2年目の展開として,農家側で上流側水田の畦塗りと境界部の明渠の拡張を行い,大学側で地下水位や土壌水分の測点の拡張をはかった.その結果として,周辺水田の深水管理が大きな影響を及ぼしていること,深水期間中の降水の状況が湿害による生育不良の有無に関連することを明らかにした.また,データ分析に限らず,排水改良のための対策として,農家との話し合いから,樹園地に適した車高の低い牽引力の大きいトラクタが所有していない農家が多い実態など営農上の問題点を知ることができた.このような形で両者の協働による課題解決のための実験的取り組みが順調に進んでおり,研究計画が概ね順調に進んでいるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
園地内には,地形条件や土壌条件が類似しているにも関わらず,排水不良の傾向が見られない箇所がある.特に,隣接水田との高低差が1m近くある箇所や,排水不良を生じている同一圃場内でも全く影響の見られない箇所も存在する.そのため,この園地は複雑な地下水の動きが予想され,さらに広域的な地下水位の調査が必要と考えられる.そこで,2016年の農閑期に地下水位の観測点を6箇所に増設し,面的な地下水流動の傾向把握ができるようにした.本年度は,周辺水田の作付け状況と対比しながら,地下水位と土壌水分の変化傾向を捉えるとともに,これらの条件もとにした数値解析による検討を進める. このほか,実験的な検討だけではなく実際の課題解決のための対応を進める.調査園地の排水不良の改善には,サブソイラ施用が有効と考えられる.しかし,この園地はブドウ棚が形成されているため,サブソイラの施用には車高が低く大きな牽引力のあるトラクターが必要となる.農家への聞き取りによると,そのような車両を有している果樹農家は少なく,借用するにあたっても,各農家が使用したい時期が重なるため難しい側面がある.そこで,代用策としてエアを使って耕盤を壊すグロースガンの使用を試み,排水不良箇所周辺の排水改良を図る予定にしている.本年度は,モニタリング調査をもとにした原因究明の段階から,一歩進め,現場の実状にあわせた解決策確立のための展開を進める予定である.
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