研究課題/領域番号 |
15K14821
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 章 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80157742)
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研究分担者 |
中畑 和之 愛媛大学, 理工学研究科, 准教授 (20380256)
藤澤 和謙 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30510218)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | データ同化 / 粒子フィルタ / 境界追跡法 / フェーズフィールド法 / フーリエ記述子 / 機能診断 / 空洞調査 |
研究実績の概要 |
地盤構造物内部に発生した空洞の複雑な形状を推定し、空洞領域の発達の予測や機能診断を行うことを目的として、データ同化手法の一つである粒子フィルタを適用し、地盤内空洞箇所の抽出能力を向上させる方法を提案した。空洞の位置および形状の表現には複雑な形状表現が可能であるフーリエ記述子を用い、 粒子フィルタにより衷心座標とフーリエ記述子の係数を同定した。粒子フィルタを用いて複雑な形状を同定するにあたり、同定すべきパラメータ数が増え、それに伴い必要となる粒子の数が莫大となることが問題となるため、Merging Particle Filter(MPF)を導入して比較的少ない粒子により同定した。 人工的に発生させた弾性波が構造物内部の空洞などの物性(主に弾性波速度や密度)の異なる境界で散乱される。散乱された弾性波を地表面やボーリング孔内に設置された受振器によって記録した。解析では、支配方程式を有限積分法FITにより離散化して弾性波の伝播を計算した。対象とする解析領域は一つの空洞を有する堤体の縦断面とし、簡単のため堤体を構成する材料は等方弾性体と仮定した。地表面の起振源より中心周波数10 Hzとなるパルス波を励振力とし、これを垂直応力として入力した。受振器は地表面に8箇所と2本のボーリング孔内に1.0 m間隔で6箇所ずつ計20箇所に設置し、到達した弾性波の水平速度成分を記録した。境界の左右は厚さ0.5mのPerfectly Matched Layer(PML)を吸収境界として設け、下面は強固な岩盤を想定し反射境界とした。数値実験を基にその有効性を確認し、劣化箇所の位置を精度良く推定でき、より複雑な形状を近似した。MPFを導入することで、同定対象のパラメータ数に対し、比較的少ない粒子数でも劣化箇所を推定できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度計画したのは、機械工学・画像処理など分野を限定せずに、レベルセット/フェーズフィールド法の応用に関する文献調査を行うことであり、同時に非線形カルマンフィルタとの整合性、得失を理論的に検討することである。粒子フィルタとレベルセット法による移動物体追跡を例にとり、構造物に関する有限要素/有限積分シミュレーションを援用した場合の適用性や適用限界を事前に検討し、併せて問題設定と定式化も検討することを予定した。 これに対し本年度は、文献調査により粒子フィルタとフェーズフィールド法との整合性を調査した。そのうえで、「9. 研究業績の概要」で記したように有限積分法FITと粒子フィルタを用い、地盤内に複雑形状を持つ空洞による散乱波観測値に基づいてフーリエ記述子のパラメータを同定することにより、空洞の位置・形状を推定する方法を検討した。当初の予定から若干変更・追加した部分はあるが、全体として研究は順調に進捗したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、プログラムの開発と既存の有限要素解析プログラムとの連携解析を予定している。計算サーバの導入と非線形カルマンフィルタ・境界追跡法による定式化を討議しながら、プログラムを開発する。既存の有限積分法コードとの連携解析を行うにあたり、想定されたシナリオに沿って弾性波動解析を事前に準備する。波動解析法は有限積分法FITをにより、GPU 計算を導入することで超並列計算を可能とする。あらかじめ想定したパラメータを用いて観測値を発生させ、非線形カルマンフィルタと境界追跡法により単純な空洞の再構成を行う。 次年度以降、空洞・欠陥を有するモデル地盤を小型模型実験装置に供し、表面のある点で加振することを検討する。これが実現すれば、内部を伝播した波動が空洞で散乱し、地盤表面において散乱波を計測する。計測値と数値シミュレーションによる計算値とのデータ同化を用い、提案手法によって地盤内空洞の位置とその形状が同定可能かを検証する。さらに、空洞の形状や大きさ、数を変えた実験を多数実施し、提案手法の適用範囲や得失を明らかにする。またモデル地盤の材料として、実験で一般的に用いられている粘性土や砂質土のみならず、実際の盛土材料や中間土を用い、実務への適用を見据えた実験・解析を実施する。 構造物内空洞・欠陥の同定精度は、観測データの種類や空間的・時間的な密度に大きく影響することが予想されるため、観測データの種類・量に関する感度解析を実施し、最適な観測点配置計画に関する検討を行う。検討結果は、平成29年度に実施を予定する実構造物への適用の際に有効な情報となりうる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者(愛媛大学)で生じた。平成27年度に粒子フィルタを用いた弾性体内部のパラメータ(音速、密度)推定を行うプログラムを作成し、数値シミュレーションを用いて検証を行った。推定値は真値と良好な一致を示したため、これらは速報的に論文投稿,学会発表を行っている。平成27年度はアルゴリズム開発が研究計画の柱であって、上述のように研究が予想よりも早く進行したため、研究者間のうち合わせ回数が予定よりも少なくなり、計上していた旅費に余剰が生じた。また、物品費も計上予算よりも使用額は少なかったが、これは介在物を入れた供試体作成が困難だったため、平成28年度に再チャレンジすることで予算を繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
研究分担者(愛媛大学)は、粒子フィルタを用いた構造内部パラメータの推定について、平成28年度実験的に検証するために物質材料研究機構にて計測を実施する予定である。従って、平成27年度の繰り越し旅費は、物質材料研究機構での実験滞在費に使用を振り替えることを計画している。また、供試体作成についても、関係機関と模索しながら別の手段を模索し、予算内で作成できるように試みていく予定である。
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