研究課題/領域番号 |
15K14823
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
佐藤 周之 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (90403873)
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研究分担者 |
手林 慎一 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (70325405)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | セメント改良 / 高有機質土壌 / 泥炭 / 力学的特性 / 耐久性能 / 性能照査型設計 |
研究実績の概要 |
土壌改良を目的としたセメント改良工法は,現在までに広く普及をしている。しかし,セメント改良土は様々な性質の土壌と混合するため,十分な土壌改良効果を得られない場合,すなわち硬化阻害が生じる場合がある。土木分野では,性能設計の導入が進んでおり,土壌特性や周辺地盤と各種耐久性の照査が必要であり,安定した性能の確保にはコンクリート工学,土質力学,地盤工学を網羅しながら,さらに有機化学の分析技術を複合した研究体制の構築が必要となる。 本研究では,セメント改良工法の適用対象を高有機質土壌に限定し,硬化阻害の原因物質を最新の有機化合物分析技術を利用して詳細に解明・検証を進めるとともに,要求性能を強度ならびにコンクリートの各種耐久性能と設定し,先に特定した原因物質の化学的な対策工法の開発を進めることで,性能照査型の効率的かつ経済的な土壌改良工法の提案を行うことを目的としている。 本課題では以下に示す三段階での検討を進めることとしている。①泥炭中から抽出した有機化合物が,セメント系固化材の硬化阻害へ及ぼす影響を評価する【Stage I】。②硬化阻害物質がセメント改良土の力学的特性・耐久性へ及ぼす影響を定量的に評価する【Stage Ⅱ】。③高有機質土壌に対する新規セメント改良工法の開発・提案と性能規定化を進める【Stage Ⅲ】。平成28年度は,前年度(初年度)より開始した【Stage Ⅰ】,【Stage Ⅱ】の分析を反復して実施するとともに,【Stage Ⅲ】に係る分析のための予備調査を行う。具体的には,硬化阻害もしくは耐久性低下の誘因となる物質の種類の特定である。このように全Stageを連動させることにより,最終的な新規セメント改良工法の提案と性能規定化につなげる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
泥炭中の有機化合物の抽出・同定とセメント系固化材の硬化阻害への影響評価【Stage I】および硬化阻害要因となる有機化合物が力学的特性ならびに耐久性へ及ぼす影響の評価【Stage Ⅱ】の検討を同時に進めた。本年度の成果としては,主としてStage Iを中心に遂行し,成果として国内の学会発表2件と論文発表1件を行った。 具体的には,泥炭のメタノール抽出物にセメントの硬化阻害活性が存在することを定法により確認した。即ち,抽出物を練り混ぜ水に用いてモルタル供試体を作成し,強度特性(三点支持曲げ強度試験および一軸圧縮強度試験)評価を進め,主に圧縮強度の低下度合いを基に硬化阻害活性を評価した。活性の確認されたメタノール抽出物を定法により液-液分配分画することで成分の分離を行うと主活性成分をジエチルエーテル層に回収することに成功し,これをシリカゲルカラムにてさらに精製した。主活性はジエチルエーテル画分に回収されたたことから次に逆相系シリカゲルカラムにて精製したところ活性は40%メタノール-水および100%メタノール画分に回収された。このように確立された精製工程から,活性物資は極性の異なる複数の物質(群)からなることと,一方の物質は両親媒性の構造を分子内に持つことが明らかにした。この知見をもとに【Stage Ⅲ】「高有機質土壌に対する新規セメント改良工法の開発・提案と性能規定化を進める」ことが可能となった。 また,判定に一年以上を要する【Stage Ⅱ】におけるモルタル供試体を用いた長期強度評価ならびに耐久性評価には(試験期間:約1.5年)は計画通り遂行中である。 以上のことから本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
セメント工法における高有機質土壌による硬化阻害の原因を有機化学的に解明・検証を進めるとともに,高有機質土壌に対する新規セメント改良工法の開発・提案と性能規定化を行うために,以下のStage Ⅰ,Ⅱ,Ⅲの試験を実施したうえで,最終的な成果の取りまとめを行う。 【Stage Ⅰ】においては,すでに確立した精製方法に従いセメント硬化阻害活性物質の追及を継続する。既に部分精製は終了しており今後の最終精製に向けての分離工程は試行錯誤的に選択されるが,特性の異なる複数種のカラムを有機的に利用した精製工程を開発する予定である。最終的には単離されたエリシターの構造を赤外吸収、紫外吸収、質量分析、核磁気共鳴等の各種スペクトルを測定することで決定する。必要に応じて合成的手法を用いて推定構造の確認や,誘導体化等による結晶化後のX線構造解析をも予定している。 【Stage Ⅱ】におけるモルタル供試体を用いた長期強度評価ならびに耐久性評価は,H28年度より実施しており,平成29年度に試験の完了を予定している。得られたデータの解析結果からセメント改良土の力学的特性・耐久性へ及ぼす影響を最終的に定量評価する予定である。 【Stage Ⅲ】に関しては,H28年度の【Stage Ⅰ】において得られた活性物質の特性である両親媒性と水酸基の存在を鑑み,セメント硬化阻害の軽減・防止策の立案を行う。さらには,それらの効能をモルタイル供試体を用いた強度試験にて実証する。 以上の研究成果をもとに,高有機質土壌に対する新規セメント改良工法の開発・提案と性能規定化を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者である手林准教授の担当する化学分析において,他機関の分析装置の使用に係る使用費と,それに伴う消耗品費等を予定していたが,研究の効果的な進捗を図るためには次年度にまとめて計測をしたほうが効率的となったため,次年度に繰り越しをすることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度には国際会議等での発表も併せて行う予定であり,上述の他機関の所有する分析装置の使用に係る費用とともに最終年度に的確に執行する予定である。
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