研究実績の概要 |
本研究は農作業に係る紫外線のエビデンス把握手法を確立し, 農業環境・情報工学と眼科学を融合した新たな紫外線対策装具の開発を目的としている。28年度は日本の環境下での農作業中の紫外線被曝量を把握するために,ウェアラブルなセンサを農繁期の農作業者に装着して紫外線被曝量のモニタリングを行った。この計測値を国際照明委員会(ICNRP)の限界許容量と比較することにより紫外線リスクの大きさを定量的に提示し, 年間の被曝量の変動を追跡して, 重点的に防護が必要になる時期や作業工程を特定し, 適切な対応策を議論するためのエビデンスを得ることが目的である。新潟県内の大規模生産法人に協力を依頼し, 参加への了承の得られた組合員の男性5人の農作業中の顔部の紫外線曝露量を, 帽子の前面に装着したセンサにより1分間当たり1回の間隔で計測した。結果は5人の1日の平均労働時間が約8時間20分であったところに, 平均日曝露量は1.28 SEDで, ICNRPの提案する基準値(8時間で1.0-1.3 SED以内)と同程度であった。日合計曝露量がこの基準値を上回った日は, 5人の合計作業日数795日中244日で(30.6%), 特に5,6 月に日曝露量の大きい日が集中する傾向が見られた。水田, 露地畑, 温室, 屋内の各環境別の平均曝露量は, 水田が最大で, 露地畑の約1.5倍, 温室及び屋内の約5倍であった。この結果は, 水田作業は水面反射の大きい環境で行われることが多いことを反映していると推察した。よって, 今回のモニタリング結果は湛水状態で行われる生育初期の代掻きや移植作業の相対的なリスクの大きさを示唆しており, 水稲移植栽培を中心としているわが国の農作業者に対しては, 特に生育初期の重点的な対策が必要とされていることが考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
28年度のモニタリング調査において, わが国農業者の紫外線曝露量の測定に成功し, 水稲を中心としたわが国の農業者に特徴的な紫外線曝露の傾向が明らかになって来た。しかし, 28年度の調査は限られた人数と特定の法人を対象としたものであるため, 同様な結果がその他の地域で確認できるかは未知数である。また水稲以外の作物を中心とした生産者がどのような傾向を示すかも明らかになっていない。そこで, 29年度は同様の手法を用いた調査を, 新潟大学農学部付属フィールドステーションの職員らを対象として, 果樹等を含む多様な母集団に対して実施するとともに, 28年度の調査結果と比較により共通した傾向が見られるか確認することを予定する。
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