本年度はまず、AFMと顕微レーザラマン分光測定装置を用いてニンジンの加熱処理温度実験を行い、加熱温度が細胞壁を構成するペクチン構造へ与える影響を調査した。特に、WSP(水溶性ペクチン)、CSP(キレート可溶性ペクチン)およびDASP(アルカリ可溶性ペクチン)の構造と分布位置をAFMと顕微レーザラマン分光測定装置によって測定し、ペクチン鎖(径と長さ)の定量化と分布の可視化を行った。その結果、WSPについては処理条件によって径が異なり、生材料に比べて低温処理(LTB:60℃、60分)したものは径が大きくなる傾向にあった。低温処理した後,高温処理(HTB:95℃、2分)したものとHTB処理したものでは、有意に小粒子化することが明らかとなった。CSPについては、LTBとLTB+HTB処理で長高分子鎖が観察されたが、HTB処理では鎖長が短くなることが分かった。DASPについては、生とLTBでネットワーク構造が類似し、HTBでネットワークが切れ、LTB+HTBで中間の結果となった。AFM観察結果と試料硬さの測定結果の比較から、ぺクチン構造が材料の硬さに影響することが明らかとなった。一方、顕微レーザラマン分光測定では、加熱処理の影響は明確ではなく、ペクチンの主成分として知られるポリガラクツロン酸の分布が可視化された。つぎに、μX線CTによるカキ果肉の観察では、カキ果肉のX線CT画像を取得し、果肉部位ごとの不均質性を明らかにした。カキ果肉はHU値によって大きく二つの部位に分類できる。蔕下に広がる疎構造とその周りを覆う密構造が観測され、貯蔵に伴いHU値が低下することが明らかとなった。HU値は空隙率との相関が高く、微細構造観察結果からもこの関係が明らかとなった。 以上、本研究から得られた知見は、微細構造情報から青果物の品質評価を行う際の基礎資料と成り得るものである。
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