研究課題/領域番号 |
15K14840
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 伸一郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (00197146)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 代謝・内分泌 / インスリン受容体 / スプライシング / 増殖 / 代謝調節 / インスリン受容体基質 |
研究実績の概要 |
ヒトでは、インスリン受容体 (IR) RNAのエクソン11の選択的スプライシングの有無によって、IR-AとIR-Bのアイソフォームが生成する。IR-Bはインスリンと結合して主に代謝制御活性を仲介するのに対して、IR-Aはインスリン様成長因子 (IGF)-IIとの親和性も高く、増殖誘導活性も仲介すると推定されている。 今回、マウス繊維芽細胞3T3-L1細胞のcDNAを用いてPCRを行ったところ、マウスIRにも2つのアイソフォームが存在することが明らかとなった。マウス各組織におけるIR-A/B発現パターンを解析した結果、肝臓や脂肪組織などのインスリンの代謝制御活性が観察される組織ではIR-Bの発現が高く、脳や増殖が盛んな胎児期の組織ではIR-Aが高発現であった。次に種々の培養細胞における発現パターンを解析したところ、多くのがん細胞でIR-Aの高発現が認められた。 IR-A/Bの機能の差異を調べるために、ヒトIR-AまたはIR-Bを恒常的に発現するNIH3T3細胞株を樹立した。インスリンあるいはIGF-II刺激を行ったIR-A恒常発現細胞では、IGF-IIに応答したMAP kinase経路 (細胞増殖誘導に重要なIR/IGF-IRシグナル伝達の下流経路) の活性化が起こり、血清存在下での培養で増殖速度が速いことがわかった。これらの結果は、IR-Bが主に代謝制御活性を、IR-Aが増殖誘導活性も仲介するという仮説を良く支持している。また、IR-Aのみを発現するマウスの樹立に成功し、現在、IR-Bのみを発現するマウスを作成中である。 IR RNAの選択的にスプライシングには、PRMT5が関与することが明らかとなったが、申請者らがこれまで明らかにしているIRSと相互作用するスプライシング因子については関与が認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IR-Aのみ、IR-Bのみを発現するマウスの作成が順調に進んでおり、またIR-AあるいはIR-Bを高発現する細胞の樹立や特定に成功している。更に、IR RNAの選択スプライシングに関わるIRS結合タンパク質としてPRMT5を特定した。
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今後の研究の推進方策 |
1. IRのバリアントを介した細胞内シグナルおよびインスリン様活性を明らかにする 細胞系を用いた解析:前年度から作成してきたIR-AあるいはIR-Bを高発現するマウスを用いて、IR-Aが増殖促進作用を、IR-Bが代謝調節作用を発揮することを証明し、そのシグナル経路を特定する。 in vivo系を用いた解析:前年度から作製してきたIR-A/Bのバリアントを特異的に発現するノックアウトマウスについて、種々の代謝指標の変動を調べ、発現するIR-A、IR-Bバリアント量によって変化するインスリン様生理活性をin vivoレベルで明らかにする。 2. IRS-1 と結合するスプライシング関連タンパク質との相互作用が、IR RNAの選択的スプライシング制御に必要であることを証明する IRS-1とスプライシング関連タンパク質との結合領域の決定:HEK293細胞に、IRS-1 の種々の領域を欠損した IRS-1欠損変異体とこれまでに明らかとなったスプライシング関連タンパク質とを高発現し、共免疫沈降実験によって、両タンパク質の相互作用に必要または十分なIRS-1側の領域を同定する。 IRS-1の結合領域を発現した細胞におけるIR RNAの選択的スプライシング制御の解析: MCF-7細胞などについて、IRS-1の結合領域のみを発現する変異体を発現するプラスミドを導入し、IR-A/Bバリアント量に変化を与える細胞外因子で処理または細胞培養条件で培養する。これらの細胞のIR-A/BバリアントmRNA量比を測定、IRS-1と当該スプライシング関連因子の相互作用がIR RNAの選択的スプライシング制御に必要であることを示す。
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