インスリン受容体(IR)は、選択的スプライシング(AS)によってIR-AとIR-Bのアイソフォームが生成する。IR-Bが主に代謝活性を仲介するのに対して、IR-Aはインスリン様成長因子(IGF)-IIとの親和性も高く、細胞増殖活性を誘導することが示唆されている。このためIR RNAのASは細胞の増殖やがん化に重要な役割を果たす可能性が指摘されている。本研究により、様々ながん細胞でIR-Aの発現比が増加しており、ヒト、マウス、ラットの脳でIR-Aが、肝臓でIR-Bが主に発現しているなど各組織でIRのアイソフォームの発現が異なる、またインスリン様シグナルなどによりせASが変化することが明らかとなった。これらの結果は、IRの選択的スプライシングは組織特異的に制御され、その制御を介して代謝調節あるいは増殖促進などIR機能のスイッチングが引き起こされる可能性を示している。IRの選択的スプライシングの分子機構を明らかにする目的で、種々の培養細胞におけるIR-A/Bの発現パターンを調べた。その結果、ラット肝癌由来細胞H4IIEではラット肝臓と同様にIR-Bが主に発現していることが明らかとなった。そこでラットIR遺伝子のエクソン11とその周辺領域を用いてスプライシングレポーターを作製しH4IIEに導入したところ、内在性IRと同様のパターンの発現が観察された。エクソン11の下流には、スプライシング制御因子RBFOX1/2の結合配列が種間で保存されて存在していたため、この配列に変異を導入したレポーターで発現パターンを調べた結果、エクソン11の排除が促進され、この配列がエクソン11の包含に機能することが明らかになった。他の結果も併せ、IRの組織特異的スプライシングには、少なくともRBFOXを含むスプライシング因子が関与すると結論した。
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