研究課題/領域番号 |
15K14850
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中尾 亮 北海道大学, 獣医学研究科, 准教授 (50633955)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 原生生物 / アメーバ / メタゲノム / 共生微生物 / 細菌叢 / ペプチド核酸 / PNA |
研究実績の概要 |
本研究では、環境中に生息するアメーバ等の原生生物が「病原体の自然界での潜伏」と「環境菌から病原菌への進化」において、重要な役割を担うのではないかとの仮説を立て検証する。感染症流行地の材料を用い、病原体と原生生物の相互関係を解明することで、感染症の発生予測・予防対策に資する知見を得ることを目的とした。昨年度、タイ王国マヒドン大学シリラート病院の研究グループと共同で類鼻疽流行地から採集した土壌および環境水より抽出したDNAについて、引き続き原核生物16SリボソーマルRNA遺伝子および真核生物18SリボソーマルRNA遺伝子の超可変領域をPCR増幅し、アンプリコン解析を実施した。16SリボソーマルRNA遺伝子の増幅には、これまで対象としてきたV3-4超可変領域に加え、V1-3領域ならびにV4領域を対象とした増幅を行い、細菌組成結果を比較した。その結果、使用するプライマーの種類により、一部の細菌群の増幅に大きく差が生じることが見出された。その中には、アメーバ等に共生することが知られているクラミジア門の細菌群などが含まれており、解析手法を再検討する必要性が生じた。また、研究を進める上で、最優占種由来の配列が得られたデータのほとんどを占める問題が浮上した。最優占種由来の遺伝子の増幅を阻害するために、ペプチド核酸(PNA: Peptide Nucleic Acids)を用いたブロッキングPCR法とD P O(Dual Priming Oligonucleotide)技術を用いたブロッキングPCR法を比較した。その結果、PNAを用いたブロッキングPCR法で、最優占種由来の遺伝子配列の増幅抑制効果が高いことが明らかとなった。さらに、これまで解析を続けてきたタイ王国由来のサンプルに加え、ザンビア共和国首都ルサカ近隣で採取した環境水由来のDNAに関してもアンプリコン解析を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マヒドン大学シリラート病院の研究グループとは、類鼻疽流行地ににおいて追加のサンプリングを計画していたが、双方のスケジュールが調整できず延期となった。特に類鼻疽が多く発生する雨季前後のシーズンのサンプリングが必須と思われるため、次年度の実施に向けて調整を行いたい。解析手法においては、上述の通り16SリボソーマルRNA遺伝子の増幅では、ターゲットとする超可変領域の種類によって細菌組成結果が大きく異なることが示された。今後のアンプリコン解析においては、事前に複数種類のターゲットを増幅し、細菌組成の違いとターゲットとする病原細菌を特定した後に、最適な領域を選択することで解析を進めることとする。一方で、今年度は真核生物の最優占種由来の遺伝子配列の増幅を抑制するブロッキングPCR法を確立できたことから、次年度において実際に疾病流行地から採集されたサンプルを用いた試験に応用したい。以上の理由から、補助事業期間を延長して取り組むこととし、進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
【サンプルの収集】タイ王国中部の類鼻疽流行地において、類鼻疽が多く発生する雨季の前後のシーズンの土壌サンプリングをマヒドン大学の研究者と共同で実施する。また、タイ王国の隣国のミャンマー連邦共和国に調査地域を広げ、土壌および環境水の採集を計画する。 【原核生物組成の解析】16SリボソーマルRNA遺伝子のV1-3、V3-4、V4の各領域をターゲットとしたPCRアンプリコンを得る。Illumina MiSeqにより解読し、それぞれの領域を対象とした時の細菌組成を取得し、比較する。 【真核生物組成の解析】今年度確立した、PNAを用いたブロッキングPCR法に基づくアンプリコン解析法を実際に疾病流行地から採集されたサンプルの解析に応用し真核生物組成を解析する。 【真核生物-原核生物共生体の分離とゲノム解析】原生生物集団から、限外希釈法により96穴プレートの各ウェルに一個体の原生生物を調整する。ゲノムDNAを抽出し、一細胞からでもゲノム増幅可能な市販試薬(PicoPLEX WGA Kitなど)を用い全ゲノム増幅を行う。増幅DNAをショットガン解析に用い、原生生物種とその保有微細菌叢を特定し、目的とする病原性細菌の宿主原生生物を特定を試みる。 【真核生物中の病原体の検出】原生生物集団をスライド上に固定し、ターゲットとする病原体に特異的な蛍光プローブを用いてFISH(fluorescence in situ hybridization)法により、真核生物体内の病原体を検出する。真核生物と病原体の共局在が明らかとなった場合、マイクロインジェクションにより共生体を抽出し、塩基配列情報から宿主真核生物を特定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マヒドン大学シリラート病院の研究グループとは、類鼻疽流行地ににおいて追加のサンプリングを計画していたが、双方のスケジュールが調整できず延期となったため。また、アンプリコン解析を進めていく上で、解析手法を再検討する必要が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
タイへの渡航費用およびサンプリングに関わる経費として使用する。また、今年度に確立した手法をもとに、Illumina MiSeqを用いた解析を行う計画であり、MiSeqの試薬の購入費に充てる。
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