研究課題/領域番号 |
15K14852
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
米山 裕 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10220774)
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研究分担者 |
野地 智法 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10708001)
秦 英司 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, その他部局等, 研究員 (50355153)
林 智人 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, その他部局等, 研究員 (90297630)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 黄色ブドウ球菌 / 乳房炎 / トランスポゾン / 形質転換 |
研究実績の概要 |
畜産業におけるウシ乳房炎はその制御が困難で経済的損失が非常に大きいことから、その克服は獣医畜産領域の最重要研究課題の一つである。中でも主要起因菌である黄色ブドウ球の乳房炎の成立に関与する病原因子は全くと言っていいほど分かっていない。そこで、本研究では乳房炎由来の黄色ブドウ球菌を対象としたトランスポゾン挿入変異ライブラリーを構築し、乳牛への感染試験の実施を目指し、トランスポゾン挿入ライブラリーの作製に必要な2つのプラスミド(pBursa, pFA545)の黄色ブドウ球菌への形質転換を実施した。黄色ブドウ球菌は外来DNAの制限能が強いため乳房炎由来の野生株は形質転換が非常に困難である。そこで、制限能を欠損したS. aureus RN4220に大腸菌から分離したシャトルベクター(pBursa, pFA545)をエレクトロポレーション法により形質転換した結果、頻度は低かったが両プラスミドの形質転換体が数十株得られた。これらの各クローンからプラスミドを分離し、BamHIとEcoRIでpBursaあるいはpFA545を切断処理して制限酵素解析を行ったところ、それぞれ、オリジナルのプラスミドと同じ断片を生じたことからNR4220株への形質転換に成功したことが分かった。次に、これらの各形質転換体からpBursaとpFA545を分離し、ウシ乳房炎由来株であるSA5株に形質転換を試みた。その結果、5 ugのDNAを形質転換したところ、pBursaは3クローン、pFA545は4クローンの形質転換候補株が得られた。それらの株から各プラスミドを分離し、上記同様に制限酵素解析を行った結果、オリジナルプラスミドと同じ切断断片が認められたことから、乳房炎由来黄色ブドウ球菌への各プラスミドの形質転換体を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
黄色ブドウ球菌の形質転換効率は大腸菌の効率に比べ遙かに低いことが知られている。特に、自然界から分離した黄色ブドウ球菌野生株を対象とした形質転換は非常に低く、それを対象とした組換え実験は困難である。本研究の標的細胞はウシ乳房炎に由来する黄色ブドウ球菌野生株であるので、トランスポゾン挿入変異ライブラリーの構築に使用するプラスミドの形質転換が想定していたより頻度が低く、宿主として当初予定していた共同分担者から分与されたウシ由来のSA1006株への形質転換がまったくできなかった。本実験を進めるためにはウシ乳房炎由来の黄色ブドウ球菌に両プラスミドを形質転換することが必須である。そこで、乳汁あるいは乳房炎罹患牛より分離した黄色ブドウ球菌を宮城NOSAIより分譲してもらい、それらの数十株の野外株を用いpFA545の形質転換効率が高い株のスクリーニングを行い、形質転換可能な野生株数株を選択することができた。このように形質転換可能な乳房炎由来黄色ブドウ球菌のスクリーニングという一見遠回りとも思われるステップを経る必要があったため、当初の実験計画よりも研究の進行が遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
効率は低いが形質転換可能な乳房炎由来の黄色ブドウ球菌SA5株が得られたので、各形質転換体であるSA5(pBursa)とSA5(pFA545)からpBursaおよびpFA545を大量に分離し、各々のプラスミドをSA5(pFA545)あるいはSA5(pBursa)に形質転換することよって2つのプラスミドを保有する形質転換黄色ブドウ球菌SA5(pBursa, pFA545)を早急に作製する。そして、この形質転換体を高温処理することによってトランスポゾンがSA5ゲノム上にランダムに挿入変異を起こしたライブラリーを構築する。このトランスポゾン挿入変異ライブラリーをウシ乳房に感染させる前に、トランスポゾンが実際にゲノム上にランダムに挿入変異を起こしていることを検証するために、挿入クローンのゲノムを抽出し、制限酵素AciI切断後ライゲーション反応を行った後、トランスポゾンの両端配列に相補的なプライマーを用いてインバースPCR反応を行い増幅断片の長さがランダムであることを確認する。その後、このライブラリーをウシ乳腺組織に感染させ実験的モデル乳房炎を成立させ、乳房炎が発症した乳房より黄色ブドウ球菌を回収する。回収された黄色ブドウ球菌のゲノム上に挿入されたトランスポゾンの位置を前述のインバースPCRの方法に従い同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ウシ乳房炎感染モデルを作製することができる野外株SA1006を本研究のモデル黄色ブドウ球菌として用いpBursaとpFA545を導入した形質転換体を取得することを試みた。しかし、この野外株はプラスミドの形質転換ができなかったため、SA1006株を使用するという方針を転換し、乳房炎由来の形質転換可能な黄色ブドウ球菌を酪農現場から集め、これら数十株の野外株の形質転換効率を評価する研究が必要となった。そのため、トランスポゾン挿入変異ライブラリーを構築した後に使用する高価な制限酵素、PCR試薬、シーケンス試薬を購入することがなかったことが次年度使用額の生じた主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の研究成果を踏まえ、トランスポゾン挿入変異ライブラリーの構築と、そのゲノム上へのトランスポゾンのランダムな挿入の検証を前述のインバースPCR法で行った後、ウシにこのライブラリーを感染させる実験を行う。そして、実験的乳房炎が成立した後、炎症反応を起こした乳房より黄色ブドウ球菌を回収し、トランスポゾンが挿入したゲノム上の位置をシーケンス反応を行って同定する。この一連の実験でゲノム抽出、インバースPCR、シーケンス反応等の実験を行うためのキット、試薬等を購入する予定である。また、本研究を遂行するために必要な情報収集あるいは成果発表のために学会参加、旅費などに経費を充当する予定である。
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