犬HK型赤血球の原因遺伝子として同定したTSPO2遺伝子は、後期赤芽球に発現し、TSPOとの類似からコレステロールの細胞内輸送を担うことが推定される。本研究の目的は、HK型赤血球の未成熟赤血球の表現型と原因遺伝子産物であるTSPO2の想定される機能に基づき、赤芽球の成熟・脱核過程を、TSPO2が細胞内コレステロール動態変化を介して調節していることを実証することである。平成28年度は、ES細胞由来マウス赤芽球系細胞MEDEP BRC5のTSPO2にCRISPER/Cas9法で変異を導入し、細胞増殖、細胞周期、ヘモグロビン合成、コレステロール蓄積等の解析を行った。 TSPO2をノックアウトした細胞(KO13)、ならびにコレステロール結合部位欠損変異体(ΔCRAC)を発現する細胞は、赤芽球分化を誘導後、野生株(WT)に比して細胞核サイズが大きく、ヘム含量、ヘモグロビン含量は低値を示した。脱核時の核のサイズもWTに比べて大きく、濃縮も遅れを呈した。一方、HK型個体の変異C40Yを導入した細胞には、これらの値に有意差は見られなかった。KO13は二核細胞、分裂期細胞の割合がそれぞれ約6%、4.3%であり、WT(各々1.8%、2.4%)に比べて有意に高値を示した。 コレステロールの需要・供給バランスが細胞周期に影響し得ること、赤血球成熟にコレステロール供給が不可欠なことは既に知られている。本研究の結果は、これら従来の知見に、TSPO2による細胞内コレステロール輸送と後期赤芽球の分裂・増殖/ヘモグロビン合成との関係という分子基盤の存在を明らかにした重要な知見といえる。
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