研究実績の概要 |
本研究は、イヌ臨床腫瘍検体・liquid biopsy を用いたがんゲノム解析により、臨床ゲノム診断検査の確立を目的とした。 その成果として、がん関連遺伝子約180種類を対象にPCRプライマーを設計し、1チューブ内で約5000セットのマルチプレックスPCRに成功し、次世代型シークエンサーを用いてDNA抽出後最短24時間でデータ取得を可能にし、迅速がんゲノム解析プラットフォームを構築した。臨床検体332例を採取・保存し、7種52例(乳腺腫瘍16例、肝臓腫瘍11例、肺部腫瘍9例、膀胱腫瘍9例、肛門部腫瘍4例、脾臓腫瘍2例、骨部腫瘍1例)を解析に供した結果、平均カバレージ2,020、平均on target率98.7%、平均アンプリコン増幅率99.2%(5091/5132セット)であり、十分な解読結果を得ることができた。 乳腺腫瘍16例の解析の結果、ゲノム変異検出数は正常3244カ所、腫瘍3953カ所、cell free DNA(CfDNA)3546カ所であった。 また、ヒト遺伝性乳がんの原因遺伝子であるBRCA2のゲノム多型・変異が検出され、他のがん6種を加えた包括的解析の結果、26種類のミスセンス変異が確認された。同ゲノム多型の一つは、遺伝子タイピングより乳腺腫瘍好発犬種であるチワワ固有のゲノム多型であることが実証された。さらに、ラパチニブ治験乳腺腫瘍症例を対象にしたがんゲノム比較解析の結果、中断例に共通してラパチニブ標的分子のファミリー分子であるHER3のkinase domainでの有害なゲノム多型を検出した。 本研究で確立したがんゲノム解析プラットフォームおよびがんゲノム解析の結果を臨床ゲノム検査として活用するとともに、イヌがんゲノムデータをヒトのがんの適切なモデルとして比較解析することで、新しい研究領域としてヒトのがんの理解・医療に貢献することが可能であると考えられた。
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