犬iPS細胞の樹立は困難であったため、本年度は初期化を行う予定であった新規犬骨髄間葉系幹細胞である骨髄脂肪細胞周囲細胞(BM-PACs)について、従来の骨髄間葉系幹細胞(BMMSCs)の比較をマイクロアレイにより検討し、初期化に適した細胞であるかを再評価した。また、初期化因子の導入効率上昇を目的に、BM-PACsの増殖能促進因子を探索した。マイクロアレイの結果からはBM-PACsとBMMSCsは非常によく類似した細胞集団であったが、107遺伝子の発現において有意差が認めれた(BMMSCsに対してBM-PACsが上昇43遺伝子、減少64遺伝子)。特に、BM-PACsと比較し、BMMSCsで老化に関与する代表的遺伝子であるβ-galactosidaseの発現が上昇しており、BM-PACsはBMMSCsと比較し、間葉系幹細胞として、より未分化であることが示唆された。また、BM-PACsにおいては、TGFβ受容体Ⅲの発現が上昇しており、セリンースレオイン経路の活性がみられた。TGFβ受容体Ⅲの機能については不明な点が多いが、これらの経路が未分化性維持に関与する可能性が示唆された。また、bFGFがBM-PACsの増殖促進因子であり、増殖後のBM-PACsは間葉系細胞(骨・脂肪・軟骨)への分化能を良く保持しており、bFGFは分化能に影響与えず、増殖能を促進させることが示唆された。今後、得られた結果を基に、bFGF処理したBM-PACsにレトロウイスルベクターを用いてヒト山中4因子を挿入することで、BM-PACs由来の犬iPS細胞の作製を試みる予定である。
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