研究課題
痛覚や痒覚などの末梢知覚は、宿主を障害から回避させる機能である。一方炎症も、病原体による侵略の拡大を防ぎ、外敵を処理する宿主の防御反応である。アトピー性皮膚炎では、痒みや炎症が起こり病勢は悪化するが、痒みと炎症は連動することもしないこともある。しかし、末梢知覚と炎症との分子生物学的相互関係は不明のままである。本研究の目的は、末梢知覚とアレルギー性炎症のクロストークを、特に神経や免疫細胞に発現し、局所の温度やpH、酸素濃度などに反応して開閉し知覚を伝達するTransient receptor potential (TRP)チャネルに着目して細胞から生体レベルで解析し、アトピー性皮膚炎における異常な痒みと炎症が連関する機構を新たな角度から解析することである。そこで平成27年度は、強い痒覚と皮膚のアレルギー性炎症が惹起されるアトピー性皮膚炎モデルNC/Tndマウスを用いて、TRPチャネル欠損NC/Tndマウスの作成を進めている。TRPV欠損及びTRPA欠損C57BL/6マウスを用いたNC/Tndマウスへの戻し交配が6世代まで進み、TRPV欠損及びTRPA欠損NC/Tndマウスが作成されつつある。すでに5、6世代目のNC/Tndマウスを用いた予備試験を開始している。また、マウスの作成を行う間にin vitroの実験を進め、NC/Tndマウスの脳神経組織や免疫担当細胞におけるTRPチャネルの発現や、刺激に対する反応性を調べている。この研究により、肥満細胞やマクロファージにもTRPチャネルが発現しており、酸素濃度やサイトカインなどの外部刺激によって活性化すること、TRPチャネルを欠損するマウスから採取した細胞ではそのような変化が起こらないことを見つけている。特に肥満細胞では、酸素濃度応答性にTRPA1が活性化し、脱顆粒が誘導されることを見出し、現在論文投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
TRPV欠損及びTRPA欠損NC/Tndマウスの戻し交配による作成が順調に進んでおり、また皮膚炎病態の惹起やかゆみや炎症等の評価系も問題なく稼働していることから、最終年度での研究成果が見込まれる。またin vitroの実験系においても、検出や評価などの実験系に苦労することなく、順調に進捗している。
平成27年度に行ってきたマウスの作成や、in vitro実験をさらに進めるとともに、平成28年度は以下のような計画で実験を遂行する。In vivoの実験では、TRPチャネル遺伝子を改変したコンジェニックNC/Tndマウスを用いて、解析を実施する。解析項目としては、痒覚による引っ掻き行動の画像解析・定量化(SCLABA®-Real解析)、痛覚の画像解析による定量化 (SCLABA解析、von Freyテスト、ホットプレートテストなど)と評価を実施し、知覚異常を検出する。また、皮膚炎の人為的誘導あるいは自然発症に伴う皮膚のTRPチャネルの発現や活性化を、免疫組織化学、ウェスタンブロット法、リアルタイムPCR法などで検出する。さらに、TRPチャネルを薬物学的に阻止したり、TRP遺伝子欠損マウスを用い皮膚炎を誘導し、皮膚炎症がどのように修飾されるかを解析する。とくに止痒により、皮膚の慢性炎症に与える影響を解析する。このような計画により、総合的にNC/TndマウスにおけるTRPチャネルの反応性について検証し、痒みなどの知覚とアレルギー性炎症のクロストークに果たすTRPチャネルの役割を明らかにする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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