研究課題/領域番号 |
15K14873
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
市居 修 北海道大学, (連合)獣医学研究科, 准教授 (60547769)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 獣医学 / 慢性腎臓病(CKD) / 遠位尿細管 / 嚢胞 / 原因遺伝子 / ゲノム / 遺伝子座 / 病理 |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)は現代の国民病であり、患者数の増加、医療経済の圧迫は深刻である。我々はCKD原因遺伝子をコードする遺伝子座をDBA/2マウスの第12番染色体上に発見し、DBA/2 renal cyst “drecy”と命名した。drecy遺伝子座は遠位尿細管上皮細胞の形態異常と嚢胞形成に関与する。一方、このゲノム領域と腎臓病の関連性は報告されておらず、drecy遺伝子座は未知のCKD原因遺伝子を包含している。本研究では、drecy遺伝子座上のCKD原因遺伝子の同定に挑み、その遺伝子異常の有無を、CKDに罹患したヒトおよび伴侶動物で検証する。本研究はCKDの診断・治療における新たな標的分子を提供し、臨床への応用展開を目的とする。 本年度はDBA/2マウスの腎病理像を精査し、CKD原因遺伝子の選抜を行った。遠位尿細管の形態異常は雌雄DBA/2マウスに加え、他の近交系マウスでは特に雌C3H/Heマウスに高率に出現し、遠位尿細管上皮傷害マーカー(IL-1F6)を発現し、一部の上皮細胞は細胞増殖活性を示した。各近交系マウスに薬物投与によって糖尿病及び急性腎障害を誘導したところ、DBA/2マウスは対照のC57BL/6マウスよりも重篤な遠位尿細管傷害を示す傾向にあった。また、このような遠位尿細管の形態異常や嚢胞形成は加齢の進んだイヌやコットンラットの腎臓でも認められた。 drecyに包含される全26遺伝子中、DBA/2のgene regulated by estrogen in breast cancer protein(Greb1) mRNAの腎臓内発現量がC57BL/6のそれよりも約4-12倍高く(P<0.0004)、その蛋白は遠位尿細管上皮細胞に局在した。以上より、Greb1はdrecyの有力な原因遺伝子候補であり、新規腎嚢胞形成遺伝子として興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はDBA/2マウスの腎病理組織像の精査とCKD原因遺伝子の選抜を目標としていた。イヌやコットンラットからもデータが得られ、原因遺伝子候補の絞り込みまで進んでおり、上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度絞り込んだ遺伝子がCKD原因遺伝子であるエビデンスを掴む。
以下の研究計画を予定している。 計画1.マウス腎上皮細胞株に原因遺伝子の発現ベクターを導入して過剰発現させ、対照コントロールと形態変化、ならびに導入後の遺伝子発現変化をマイクロアレイで網羅的に解析する。また、DBA/2の遺伝学的背景で原因遺伝子のノックアウトマウスを作出し、CKD病変を野生型マウスと比較する。本マウスではCKD病変が軽減あるいは変化することを予測している。培養細胞の解析はCKD原因遺伝子の異常が引き起こす細胞内イベントを明らかにし、ノックアウトマウスの解析ではCKD原因遺伝子であることの確固たるエビデンスを得る。
計画2.CKDに罹患したヒトと伴侶動物を対象に、同定したCKD原因遺伝子の異常を調べる。CKDと診断されたヒト、イヌ、あるいはネコの腎臓組織を用いて、同定したCKD原因遺伝子の発現を調べる。また、Laser Microdissection法とin situ hybridization法でmRNAの局在を、免疫染色で蛋白の局在を、シークエンス解析でCKD原因遺伝子の塩基配列と出現バリアントの差をCKD群と健常群で比較する。CKD原因遺伝子の異常が発現量差に起因する場合は、プロモーター領域の多型をCKD群と健常群で比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
支出予定が1,820,000円中、残額は8,032円であり、ほぼ予定どおりの執行状況である。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の試薬等の購入に利用する。
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