本研究では、雌性生殖寿命の延長を目的として、卵巣内で長期維持される卵胞の形成を顆粒層前駆細胞の追加ならびに成長因子等により増強する方法を検討した。本年度は、出生前後のマウス卵巣を使用して、細胞表面マーカーを指標とした顆粒層前駆細胞の分離と同発生段階の卵巣への追加・器官培養、増強因子の検討(前年度から継続)および新生仔マウスへの増強因子の投与実験を行った。胎仔~新生仔マウス卵巣から細胞表面マーカーLgr5を指標として分離した細胞を蛍光標識し、分散させた卵巣細胞と混合・凝集により細胞塊を形成させて培養、または、回収された細胞を卵巣の表面に付加して器官培養し、培養後の組織において卵母細胞を蛍光免疫染色して蛍光標識の分布を検討したところ、標識細胞が卵母細胞の周囲の顆粒層に相当する部位に観察されるものがあった。上記二法を比較すると、卵巣表面への付加の方が卵胞様構造への局在性が高い傾向が見られた。細胞分画の純度ならびに標識細胞の変性・二次的取り込みの混入について検討が必要であるが、顆粒層前駆細胞の分離と卵巣への付加により、卵巣内での卵胞形成に寄与させられる可能性が示された。増強因子としてR-spondin-1の効果については、前年度から引き続きの検討で胎仔期卵巣に添加培養後、卵胞数および発育段階を組織学的に解析したところ、卵胞形成開始卵母細胞~原始卵胞の比率が上昇する傾向が認められた。また、同因子を出生直後のマウスに投与し、生後7および14日の卵巣での卵胞数および発育段階を解析したところ、生後14日で一次卵胞(発育開始卵胞)が対照個体に対して減少する傾向が見られたが、標本数が少ないことなどから再検討が必要と考えられる。本研究の結果から、顆粒層前駆細胞に対する操作を介して卵巣内での卵胞形成に影響を与えられることが示唆される。
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