研究課題
幼少期の母子環境は成長後の情動や認知能力に大きく影響することが知られている。ラットなどでの実験から、幼少期環境のなかでも母から仔へのグルーミングといった“撫で刺激”が仔の発達に重要な役割をもつことが示されてきた。一方、2013年に撫でられることで特異的に反応する新規の感覚ニューロンが同定された。そこで本課題では、この“撫で感受性ニューロン”の活性を遺伝子改変マウスとミュータジェネシス受容体DREEDsシステムを駆使して時期特異的に制御し、この撫で感受性ニューロンの幼少期における生理的役割、本課題では特に痛覚発達への役割を明らかにすることを目的とした。これまで、マウスを通常より早期に離乳すると成長後に母性行動が低下するが、この早期離乳マウスに育てられた次世代マウスでは、足裏にホルマリン溶液を皮下投与して疼痛を評価するホルマリンテストにおいて、通常マウスに育てられたマウスよりも投与足への舐め行動が高く、痛み感受性が増加することを明らかにしてきた。そこで撫で感受性ニューロンを時期特異的に制御するために、撫で感受性ニューロン特異的に発現するMrgprb4の遺伝子近傍にCre遺伝子を組み込んだMrgprb4-cre遺伝子改変マウスを導入した。最終年度は出生直後のこの遺伝子改変マウスに撫で感受性ニューロン特異的に抑制性GタンパクであるGiが共役したDREEDs-Giをウィルスベクターにて導入し、離乳前まで人工リガンドであるCNOを投与することで、幼少期にのみ撫で感受性ニューロン活性が抑制されて育つマウスを作出した。未だ例数は少ないものの、このマウスではDREEDs-Giを導入しなかった遺伝子改変マウスに比べて、痛み感受性が増加する結果が得られている。これらのことから、幼少期に受ける母マウスからの撫で刺激は仔マウスの痛覚を適切に発達させる役割があることが示唆される。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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