魚類の卵子と胚の凍結保存は未だ成功していない。その原因は、哺乳類の卵子や胚と比べて体積が著しく大きく、耐凍剤の浸透と細胞の脱水・濃縮が不十分で、細胞内に氷晶が形成されやすいためである。我々は、マウス胚用に、従来のガラス化法と比べて浸透圧が極めて高い保存液を用いた平衡ガラス化法を開発した。この方法では、細胞はより脱水・濃縮された状態で凍結保存される。本研究では、まずゼブラフィッシュ卵子の高浸透圧傷害に浸透圧を感知するTRPチャンネルが関与しているかどうかをしらべた。次に水・耐凍剤チャンネルと不凍タンパク質を人為的に発現させた卵子を用いて、浸透圧感知チャンネルを阻害した状態で平衡ガラス化法により凍結保存をこころみた。無処理のStage IとStage IIIの未熟卵子のいずれも高張なシュクロース液で処理すると速やかに死滅したのに対し、TRPチャンネルの非特異的な阻害剤であるルテニウムレッドで処理した卵子では生存性が向上した。同様に、これらの卵子をルテニウムレッドで処理すると、ガラス化凍結用の前処理液と保存液で処理した後の卵子の生存性は向上した。そこで、水・耐凍剤チャンネルであるラット由来のaquaporin-3とウインターフラウンダー由来の不凍タンパク質のcRNAをStage IとStage IIIの卵子に注入して発現させ、ルテニウムレッドで処理してから平衡ガラス化法で凍結したところ、Stage III卵子のみ融解直後に一部の卵子が生存していた。しかしながら、融解1時間後には全て死滅していた。一方処理しなかった卵子では融解直後にすべて死滅していた。これらの結果から、魚類卵子ではTRPチャンネルが高浸透圧による傷害に関与し、それを阻害することによってある程度耐凍性を向上させることができることがわかった。しかしながら、魚類卵子の凍結保存を成功させるためにはさらなる改良が必要である。
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