研究課題/領域番号 |
15K14890
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
中村 隼明 基礎生物学研究所, 生殖細胞研究部門, 特別研究員 (30613723)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 精子幹細胞 / 移植 / 細胞死 / マウス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、現在非常に低い精子幹細胞の移植効率を実用可能なレベルまで引き上げることである。宿主マウス精巣内へ移植された精子幹細胞のクローンが生着後に大量死する、という申請者自身の発見に基づき、この大量死のメカニズムを解明し、これを制御することで汎用性の高い効率移植できる技術の開発を目指す。 第一にアポトーシスと細胞死の関連性について検討した。精子幹細胞マーカーのGFRα1を発現する未分化型精原細胞(GFRα1+細胞)においてGFPを発現するマウスの精巣を単一細胞に解離し、これを宿主マウス精細管内に移植した。大量死が起こる移植2日後に精細管を採材し、whole-mount免疫染色法によりGFP+細胞におけるBax、Bcl-2、活性型Caspase-3の発現を解析した。その結果、GFP+細胞では、これらアポトーシスマーカーの発現はほとんど観察されなかった。さらに、Y-27632やZ-VAD-FMK等これまでに細胞死を抑制する効果が報告されている薬剤を様々な濃度と組み合わせでドナー細胞の懸濁液に添加して、宿主精細管内に移植した。2ヶ月後のコロニー数および長さを比較検討した結果、今回検討した薬剤はコロニー形成に影響を及ぼさなかった。 続いて、移植した精子幹細胞のクローンの運命を単一細胞の分解能で詳細に解析した。その結果、移植後に生着した精子幹細胞はすべて自己複製するのではなく、分化することを新たに見出した。そこで現在、移植後に生着した精子幹細胞の分化と細胞死の関連性について検討しており、精子幹細胞が分化して細胞死を起こす可能性が予備的に示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの精子幹細胞研究の多くが移植後にコロニーを形成する活性に基づいているにも関わらず、コロニー形成の過程は依然ブラックボックスであった。申請者は宿主マウス精細管内に移植された精子幹細胞のクローンが生着後に大量死することを発見した。そこでまず、大量死が起こる移植2日後において、精子幹細胞マーカーのGFRα1を発現している細胞に注目してアポトーシス関連遺伝子の発現を解析した。その結果、これらの細胞ではアポトーシス関連遺伝子の発現がほとんど観察されなかった。この結果から、移植後に生着した精子幹細胞のうち、GFRα1を発現している細胞が直接細胞死によって消失しているのではないことが示唆された。また当初の計画を早めて、先行研究において細胞死を抑制する効果が報告されている阻害剤をドナー細胞に添加して移植する方法により、最終的なコロニー形成効率が向上するか検討したが、顕著な効果はみられなかった。 そこで、宿主マウス精細管内に移植した精子幹細胞の動態を明らかにする目的で、クローンの運命を単一細胞の分解能で詳細に解析した。その結果、移植後に生着した精子幹細胞のうち自己複製するのは一部で、すぐに分化することを新たに見出した。そこで、移植後に生着した精子幹細胞は分化して細胞死を起こすという仮説をたて、現在この検証に取り組んでいる。予備的ではあるが、移植後に生着した精子幹細胞の分化を抑制することにより、精子幹細胞のクローンの大量死が抑制されることを見出している。この予備的な結果は、上記の仮説を支持するものであり、移植後に起こる精子幹細胞のクローンの大量死の原因が初めて明らかになりつつある。 これらの研究成果に基づいて、当初の研究計画とは異なるが、最終的な目標に向けておおむね順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究成果に基づいて、移植後に生着した精子幹細胞は分化して細胞死する可能性について、引き続き検証を行う。先行研究において、定常状態のマウス精巣では幹細胞活性を失った分化型精原細胞において細胞死が起こることが報告されている。そこで、移植2日目以降に分化型精原細胞マーカーのc-kitを発現している細胞に注目してアポトーシス関連遺伝子の発現を解析する。また、当初の予定通り精子幹細胞の最終的な移植効率を向上させるための簡便かつ汎用性の高い技術開発を試みる。移植後に生着した精子幹細胞の分化を抑制し、移植2ヵ月後のコロニーの総数と長さを計測することにより、移植効率を測定する。本来、細胞死により消失する運命にあった精子幹細胞をレスキューすることにより、癌化等の問題が生じる可能性が考えられる。そこで、正常な精子形成が起こっているか、さらに通常の産仔が得られるかについても解析する。 以上の研究により得られた結果を取り纏め、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画に則り研究を開始したが、予想とは異なる結果が得られたため、研究計画を変更した。これに伴って、平成27年度の交付額と実支出額に差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、当初の研究計画通り前年度に引き続き、移植後に生着した精子幹細胞の細胞死を抑制する方法の開発に取り組む。これに加えて、新たに精子幹細胞の分化を抑制する方法の開発にも取り組む。これに伴って、阻害剤を系統的に検討する必要がある。このため、平成27年度の交付額と実支出額の差額は、その購入費に充てる。
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