研究課題/領域番号 |
15K14891
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伴戸 久徳 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20189731)
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研究分担者 |
佐藤 昌直 慶應義塾大学, 大学院 政策・メディア研究科, 助教 (20517693)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | バキュロウイルス |
研究実績の概要 |
北海道で2006年に分離されたカイコバキュロウイルス(BmNPV)分離株(H4)は、標準株(T3)と比較すると培養細胞BmNでの増殖能は非常に低いが、カイコ個体への注射による接種ではT3よりも効率良く増殖し、体液中のウイルス量は約3倍に達する。H4とT3ゲノム塩基配列の間の類似性は98%と非常に高いが、H4はカイコ個体での増殖に高度に適応した系統であり、BmNPVの個体適応に関わる遺伝子構造を理解する上で極めて貴重なリファレンスであることを意味している。本研究の目的はBmNPV系統間のキメラウイルス再構築により、個体適応性(増殖能の向上)に関わるウイルス遺伝子構造を明らかにし、BmNPVベクター系改良技術の創出に繋げることにある。 まず、H4のBmNPVゲノム(約130kbp)全域を、大きさ約5kbpのDNA断片でカバーするゲノム断片ライブラリーを作製した。T3のライブラリーは作製済みであり、それぞれの断片は、制限酵素によりベクター配列からの切り出しが可能であり、酵母内での結合反応に直接用いることが出来るように設計した。そこで、これらのゲノム断片ライブラリーを用いて16種類のキメラウイルスゲノムを構築中である。一方、培養細胞を用いた観察において、H4はT3に比べて顕著に小さいプラークを形成することことから、両株の増殖性の違いを生み出す要因が出芽ウイルス(BV)の感染効率にある可能性が考えられる。そこで、細胞間感染で重要な役割を果たすウイルス膜タンパク質GP64をT3とH4で入れ替えた組換えウイルスを作製し、ウイルス増殖と外来遺伝子発現に与える影響を調査したところ、GP64の構造の違いが、T3とH4の個体での増殖特性の違いに大きく関わっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、H4のBmNPVゲノム(約130kbp)全域を、大きさ約5kbpのDNA断片でカバーするゲノム断片ライブラリーを完成させた。一方、酵母を用いたウイルスゲノム人工合成系によるH4とT3のキメラウイルスゲノム作製は完了していものの、ウイルス膜タンパクGP64に焦点を当てたキメラウイルスの構築と増殖特性解析において、H4のGP64がT3の個体増殖性を改善することが判明した。この発見は、本研究の目的である「個体適応性(増殖能の向上)に関わるウイルス遺伝子構造を明らかにし、BmNPVベクター系改良技術の創出に繋げる」にとって、大きな成果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、昨年度作製したウイルスゲノムライブラリー断片を用いて、ウイルスゲノム人工合成系によるH4とT3のキメラウイルスゲノムを完成させ、それらの増殖特性解析を行う。また、GP64を入れ替えたキメラウイルスの増殖特性と外来遺伝子発現特性についてさらに解析を進める。それらの結果を基に、BmNPVの個体適応に関わる遺伝子とその分子機構について推定すると共に、今後、その詳細を明らかにして「カイコ個体を用いたBmNPVベクターの新規改良技術の確立」のための研究計画を策定する。
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