研究実績の概要 |
20-hydroxyecdysone(20E)が昆虫の性的二型の分化に関わるとのいくつかの知見に基づき、Loof(1998)は性決定時期における20E量の性差が性分化に決定的な役割をもつと仮説を立てたが、これを支持する証拠は得られていない。そこでまず、カイコ胚子期の20E量やecdysone関連遺伝子の発現量を雌雄間で比較し、ecdysoneと性分化との関係性を明らかにすることにした。LC-MS/MSを用いた測定の結果、産下後7日の雌卵の20E量は雄卵と比べて高い値を示した。これに関連して、母性由来のecdysone conjugateを脱リン酸化し、freeのecsdysone産生に関わるEPPaseが産下後4~5日の雌卵において雄卵より高い発現を示すことが確認された。また、ecsdysone受容体EcRB1やEcRB2、ecsdysone初期応答遺伝子E75Bについても、産下後4~7日目の雌卵において雄卵より高い発現がみられた。これらの遺伝子の発現と性決定カスケードとの関わりを調べるため、雌化遺伝子Femと雄化遺伝子Mascをノックダウンした場合に見られる影響について調べた。その結果、Mascをノックダウンすると、雄卵におけるEPPase, EcRA, EcRB1, EcRB2, E75A, Ftz-F1の発現量が2~4倍程度増加することがわかった。Mascをノックダウンした際に発現量が最も増加したEPPaseをノックダウンすると、上述の遺伝子の発現量は減少した。興味深いことに、EPPaseのノックダウンは雌雄両方におけるBmdsxの発現量を減少させることが判明した。以上これまでの研究成果により、胚発生期における20E生合成遺伝子が性決定カスケードの制御下にあること、また、エクダイソン量の性差やそれに応答する遺伝子群の発現量の性差が、性分化に関わることを示唆する結果を得ることができた。
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