研究実績の概要 |
昆虫の後胚発生は,エクジソン及び幼若ホルモンの協調による脱皮・変態によって進行する。この進行の際,脱皮や変態のタイミングを決定するのがエクジソンであり,エクジソンの合成タイミングを制御するのが脳の神経分泌細胞から分泌される前胸腺刺激ホルモン(PTTH)である。PTTH細胞からのPTTHの分泌は,光や温度などの外的要因と栄養状態などの内的要因によって制御されている。本研究では,内的・外的な環境情報がPTTH分泌細胞へと集約され,PTTH細胞の神経活動状態へと還元されることで脱皮や変態のタイミングの制御が行われているという仮説を立て,PTTH細胞の神経活動の詳細な解析及び人為的な操作による本仮説の検証に取り組んできた。 本年度は,PTTH細胞の活動を人為的に操作できるDREADD(活性化型:hM3D, 抑制型:hM4D)発現系統とチャネルロドプシン(ReaChR)発現系統を作出した。5齢ワンダリング前日と蛹2日目に,DREADDもしくはチャネルロドプシンを用いて神経活動を制御し,血中エクジソン濃度に変化が起こるかどうかを検討した。その結果,①5齢ワンダリング前日にPTTH細胞の神経活動を促進すると血中エクジソン濃度が上昇し,抑制すると下がること,②蛹2日目に神経活動を促進すると血中エクジソン濃度が下がるが,抑制すると上昇すること,を見出した。これはPTTH細胞の神経活動を操作することで血中エクジソン濃度を人為的に操作できる可能性を示している。 また,CRISPR/Cas9を用いて,PTTHノックアウト系統を作出し解析を進めた。しかし,解析を進めているときに,他研究グループからTALENを用いたPTTHノックアウトの解析の論文が出版されたことで研究計画の一部変更が必要となった。
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