研究課題/領域番号 |
15K14901
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研究機関 | 国立研究開発法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
田中 博光 国立研究開発法人農業生物資源研究所, 昆虫微生物機能ユニット, ユニット長 (30391577)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カイコ / ダウン症細胞接着性分子 / 免疫記憶 |
研究実績の概要 |
昆虫の免疫機構は脊椎動物とは異なり、迅速で非特異的に行われる自然免疫機構のみを有し、一度侵入・感染した病原体に対する免疫記憶はないとされる。しかし申請者は最近昆虫にも記憶を伴った免疫機構があることを示唆する知見を見いだした。そこで本研究では、昆虫の記憶を伴った免疫機構を明らかにするために、カイコを実験材料とし、免疫記憶に関わる昆虫側の因子の探索同定を行うことを目的とする。今年度は選択的スプライシングによって1万種類以上もの翻訳産物を潜在的に形成することが知られ、かつ異物を認識するレセプターとしての機能があることが知られているダウン症細胞接着性分子(Dscam)に着目し、免疫記憶のキー因子として作用するかを解析した。 まず、カイコゲノム情報を利用して、Dscam遺伝子をin silicoクローニングし、本遺伝子のエキソンが37個存在すること、そのうち第4エキソンが15種類、第6エキソンが23種類、第12エキソンが19種類、第31エキソンが2種類あることを見いだした。次に4齢幼虫カイコに大腸菌あるいは黄色ブドウ球菌を接種し、24時間後に血球を回収して、Dscam遺伝子の第4エキソンの発現パターンを解析した。その結果、無処理カイコの発現パターンは大腸菌や黄色ブドウ球菌を接種したカイコの発現パターンとは異なる傾向があること、大腸菌接種カイコと黄色ブドウ球菌カイコ間でも発現パターンが異なる傾向にあることが示された。また、3齢幼虫に大腸菌を接種(一次接種)した後、5齢4日目カイコに再度大腸菌を接種して体液を回収し、体液中のメラニン化の度合いを一次接種をしない対照区と比較した結果、一次接種した実験区は対照区よりメラニン化の度合いが低いことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね計画通りに進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
一次接種をしたカイコに大腸菌を再接種した場合、一次接種をしない場合と比べて有意にメラニン化の度合いが低下したことから、この度合いの違いが、体液中の顆粒細胞やプラズマ細胞等の数の違いによるものかを明らかにする。また、大腸菌や黄色ブドウ球菌の接種した場合のアイソフォームの発現パターンを第4エキソン以外のエキソンに着目し、特異的なアイソフォームが転写されるかを確認する。さらに、特異的なアイソフォームの発現が確認できれば、in vivoトランスフェクション法を用いて特定のアイソフォームをカイコ幼虫に発現させた時に、大腸菌接種後の細胞性免疫能が増大するかを体内の細菌数を測定することにより検証する。また、免疫記憶を導き出す微生物側の構成成分を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究用試薬やガラス・プラスチック器具等を効率的に使用した結果、研究費に余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
余剰が生じた研究費は次年度の研究費と合わせて、人件費や遺伝子発現解析実験などに必要な試薬類、器具類の購入にあてる。
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