昆虫は、迅速で非特異的に行われる自然免疫機構のみを有し、一度侵入・感染した病原体に対する免疫記憶はないとされる。しかし昆虫にも記憶を伴った免疫機構があることを示唆する知見を見いだしている。そこで本研究ではこの免疫機構を明らかにするため、免疫記憶に関わる昆虫側の因子の探索同定をカイコを用いて行うことを目的とした。今年度は選択的スプライシングによって1万種類以上もの翻訳産物を潜在的に形成し、かつ異物認識レセプターとしての機能があることが知られているダウン症細胞接着性分子(Dscam)に着目し、免疫記憶因子として作用するかをさらに解析した。 まず、Dscam遺伝子の第6エキソンに着目し、このエキソンのクローニングを進めたところ、少なくとも27種類あることを見いだした。4齢幼虫カイコに大腸菌あるいは黄色ブドウ球菌を接種し、24時間後に血球を回収して、Dscam遺伝子の第6エキソンの発現パターンを解析した結果、無処理カイコの発現パターンは大腸菌や黄色ブドウ球菌を接種したカイコの発現パターンとは異なる傾向があること、大腸菌接種カイコと黄色ブドウ球菌接種カイコ間でも発現パターンが異なる傾向にあることが示された。しかしながら、大腸菌あるいは黄色ブドウ球菌接種カイコいずれにおいても特定のエキソンバリアントのみが特異的に発現しているわけではないことも示唆された。また、第6エキソンを含まないバリアントも見いだされ、これは、細菌処理をしたカイコでより多く発現している傾向にあることが分かった。第4エキソンにも着目し、発現パターンをさらに正確に調べるため、定量RT-PCR解析を行ったところ、エキソンバリアントごとによって発現量が大きく異なることが示されたが、細菌処理カイコ、ペプチドグリカン処理カイコ、無処理カイコ、生理食塩水処理カイコ間で発現量が大きく異なるエキソンバリアントは見出されなかった。
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