研究課題/領域番号 |
15K14909
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
菅野 博貢 明治大学, 農学部, 専任准教授 (40328969)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 戦争遺産 / 戦災樹 / 被災樹 |
研究実績の概要 |
本研究は戦争遺産として希少化しつつある戦災樹を対象として、その現存状況と保全方法について考察している。初年度の2015年度には(研究助成開始以前からの研究の延長として)東京都内、特に1945年3月10日の東京大空襲で激しい戦災を受けた城東三区(江東区、台東区、墨田区)を中心に戦災樹の探索を行なった。この調査においては、それまで既往文献などによって知られていた戦災樹の確認と、その損傷状態について詳細な調査を行い、最初の段階として損傷した樹木が戦災樹であるかどうかの手がかりを得る方法について考察した。その結果、特に焼け焦げ跡の他に、推定樹齢、(損傷面と非損傷面での生長速度の違いによる)傾きなどが戦災樹を見分ける手がかりであることを明らかにした。 一方、調査対象エリアにおいて、どの程度現存しているのか、航空写真をもとに対象地内の全ての緑をピックアップし、大学院生などの調査協力を得つつ、全て踏査した。その結果、戦災樹と疑われる樹木が当初の想定以上に数多く存在する可能性があることが分かった。さらにこれらの調査の結果、過去の被災エリアに照らしてみると、「戦災樹は戦災エリアの縁辺部に多く分布する」ということが明らかになった。これは都市内部の樹木が戦災や震災の火事の際に「焼け止まりになった」ということを実証的に明らかにしている。 2016年度は都内での調査と並行しつつ、地方都市での調査を本格化させることとした。具体的には、函館、名古屋、鹿児島で調査を実施している。対象都市は第二次世界大戦時に2万戸以上の焼失家屋が発生した都市を北海道、東北・・・四国、九州の各エリアから1箇所を選定して実施することとした。この調査では、戦災樹の他に「被災樹」という新たな損傷樹木の存在も明らかになり、それらを含めた調査を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東京都内の城東三区(江東区、台東区、墨田区)から戦災樹の調査を始め、東京23区へ調査範囲を拡大するとともに、地方都市についても調査を進めている。現在のところ城東3区に関しては調査が完了したが、その他の区については地方都市の調査を優先させたため、まだ十分に進んではいない。 地方都市を優先した理由は、戦災樹研究の全体の枠組みをできるだけ早く明確にしたいという考えがあり、実際に当初考えていなかった新たな研究の枠組みも浮上してきた。例えば、函館で行なった調査により、日本の都市が幾度も経験してきた大火の痕跡が損傷樹木の中に刻まれており、単に戦争の記憶を保全することのみならず、その他の災害にも目を向ける必要が生じた。また、名古屋の調査においては戦時中に軍によって設定された「防空緑地」という存在が浮かび上がり、損傷樹木を追うことで意外な歴史的事実に巡り合うことになった。 このように当初の想定を超えて戦災樹研究は広がりを見せており、当初考えていたような被災した主要都市を単純に探索する、という調査方法を改め、全体の枠組みを整理した上で進めていくべきであるとの結論に至っている。
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今後の研究の推進方策 |
地方都市を優先させた影響で遅れている東京23区内の調査は本年度の前半までに終了させる計画である。すでに23区に関する戦災の歴史的資料は入手済みであるため、調査の遂行に問題はないと考える。 地方都市に関しては、先述の被災樹や防空緑地のような興味ある対象が増えるとともに、様々な情報も寄せられるようになり、取捨選択しつつ調査に臨む必要が生じている。例えば、東京大空襲時に航路をそれて宮城県の蔵王連峰に激突した3機のB29の存在など、戦災樹研究の延長として確認してみたい事項も増えている。 しかしながら、本年度で当初の研究計画を履行する必用があるため、未調査の対象地方都市(戦災で2万戸以上が焼失した都市で、和歌山市、高松市、福井市など)について、現地調査を実施する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究対象とした戦災樹以外にも、その都市の発展の過程で発生した大火などで生じた「被災樹」など、当初の想定以上に研究対象とすべきものが増えた。そのために都市史等の資料収集はじめとして、調査、研究の範囲がひろがったことが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
損傷樹木は戦災のみならず、様々な被災の歴史を伝えていることが明らかになった。このようなことが明らかになった事自体、本研究の成果でもあるので、それらを含めた調査、研究を進めるべきであると考える。具体的な計画としては、8月までに対象都市の資料収集を終え、8月、9月の夏休み期間を地方都市の調査に当てる。それ以外の期間で東京23区の残りのエリアを調査する計画である。
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