初年度に東京大空襲の被害が最も大きかった江東区からはじめた調査は、その後、城東三区(江東区、墨田区、台東区)に対象エリアを拡大し、最終的に23区全域において戦災樹の残存状況を把握することを目指した。個人所有の住宅地や施設など、立ち入りの制限されるところも少なくないため、完全に探索が完了したとはいえないものの、一通り全てのエリアで探索が完了した。また、近年公開された米軍の空襲の記録から、より実証的に東京大空襲の実態を把握することが可能となり、それら資料と戦災樹の現況を重ねて検証する作業にも取り掛かった。これらについて発表した論文は、「データの信頼性」「論証の信頼性」について問題があるとされ、残念ながら不採用となったため、現在はその修正に取り組んでいる。 東京都の調査に並行して地方都市の戦災樹についても引き続き調査を実施している。全国に数多く分布する被災都市の中でも、北海道、東北、関東、北陸といった地方ブロックごとに、2万戸以上の住宅が被害を受けたことを基準として調査対象都市を選定した。初年度から函館市、室蘭市、名古屋市、鹿児島市などについて調査を実施し、29年度は和歌山市を対象に調査をおこなった。この結果、北海道では他の都市のような焼夷弾による空爆ではなく、艦砲射撃による被災であることや、名古屋ではかつての防空緑地の存在と現在の戦災樹の結びつきが推察されるなど、地方によって戦災樹の現れ方が異なることが明らかになった。また、函館市での調査によって、日本の都市が幾度も経験してきた都市大火の痕跡も、混在していることが明らかになった。人的、予算的制限から当初対象とした北陸地方の富山市(または福井市)、四国の徳島市、中国地方の呉市などでの調査は今後に残すことになったが、ヒアリングで情報収集できる戦争体験者の高齢化が進んでおり、研究費の有無にかかわらず早急に調査を完了したいと考えている。
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