研究課題/領域番号 |
15K14915
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神崎 亮平 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40221907)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 匂い結合タンパク質 / 昆虫 / 嗅覚受容体 / 匂いセンサ |
研究実績の概要 |
昆虫の嗅覚受容体を発現させたSf21細胞(センサ細胞)を検出素子とする匂いセンサは、液中に溶解した匂い物質を検出するため、気中の匂い物質の検出には、気化した匂い物質を液中に溶解して供給する仕組みが必要となる。これまで、代表者らのグループは、昆虫の触角で匂い物質の可溶化に機能する匂い結合タンパク質を精製する技術を確立してきたが、揮発性が高く難水溶性の匂い物質をセンサ細胞が反応する濃度まで溶解する技術の確立には至っていない。本研究では、気化した匂い物質を液中に高効率で溶解する技術を確立し、センサ細胞と統合した、気中の匂い物質を検出できる匂いバイオセンサ構築の基礎技術を目指した。 これまでに、キイロショウジョウバエ嗅覚受容体を発現させたセンサ細胞を作出し、有機溶媒を用いて混合した1-オクテン-3-オールを検出できることを示してきた。そこで、平成27年度では、難水溶性の匂い物質である1-オクテン-3-オールの溶解技術の確立に取り組んだ。まず、連携研究者によりすでに確立されている有機化合物の溶かし込み技術を用いて1-オクテン-3-オールの溶解試験を実施したところ、本技術により気化させた1-オクテン-3-オールを蒸留水中に溶解させることができることを示した。GC-MS分析の結果、有機溶媒を用いることなく、蒸留水中に最大54.2mMの濃度で溶解できることが分かった。 次に、気体から溶解した1-オクテン-3-オールを用いて、Or13aを発現させたセンサ細胞の応答を測定した。その結果、センサ細胞は蛍光応答を示し、濃度依存的に蛍光強度変化量を増加することが分かった。しかし、有機溶媒を用いた場合と比較して、気体から溶解した匂い物質に対するセンサ細胞の応答は低下することが分かった。より高効率な溶解技術の確立を目指し、現在、嗅覚受容体が発現する感覚子で機能するOBPの探索と単離を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では、難水溶性の匂い物質である1-オクテン-3-オールを対象に、有機化合物の溶かし込み技術によって、気化させた匂い物質をmMオーダもの高濃度で液中へ溶解できること示した。気体から溶解した匂い物質はセンサ細胞に適用することができ、気体から溶解した場合でもセンサ細胞は濃度依存的に応答することが初めて明らかとなった。現時点では1-オクテン-3-オールのみであるが、センサ細胞が応答するレベルまで溶解できることを示し、気体の溶解技術が、センサ細胞の応答取得に有効であることを実証した。これにより、これまでに液中の匂い物質を対象としていた匂いセンサから、センサ細胞を利用した、気体の検出が可能な匂いセンサの構築の可能性を示すことができ、本研究の目的である気体を検出可能な匂いセンサの構築に向けて極めて重要な成果が得られた。一方、気体から溶解した匂い物質に対する検出感度は、従来の有機溶媒を用いた場合と比較して低下する可能性が示唆され、有機溶媒やOBP等を利用した溶解の必要性等、本技術の今後の課題を抽出することもできた。 以上のように、現在までに気化させた匂い物質を高濃度で溶解し、すでにセンサ細胞の応答取得まで達成したことから、「おおむね順調に進展している」ものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、平成27年度に確立した技術を発展させ、気化した匂い物質をより高効率かつ迅速に溶解する手法の確立を目指し、1-オクテン-3-オールを対象にマイクロバブル等の溶かし込み技術による溶解条件(溶解にかかる時間、保持時間、採取できる液量等)を検討することで、溶解条件の最適化を図る。同様に、ジオスミンを対象とした溶解試験を実施し、溶解条件を決定する。これにより、本手法による気体の匂い物質の溶解技術を確立する。並行して、対象となるOBP遺伝子の単離およびタンパク質精製を進め、溶解技術と組み合わせることで、より高効率な匂い物質の溶解が可能かを検証する。また、対照技術として、ガス透過膜および気液交換チップを用いた溶解技術の有効性を調べる。以上をとおして、気体の匂い物質の高効率な溶解技術を確立する。 最終的に、気体から溶解した匂い物質に対するセンサ細胞の応答性(匂い選択性、濃度依存応答)を取得し、有機溶媒により混合した匂い物質に対する蛍光応答と比較することで、センサ細胞の応答性を評価する。これにより、確立した気体の匂い物質の溶解技術が、気中の匂い物質を検出できる匂いバイオセンサの基盤技術となることを検証する。
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