匂い検出素子となる昆虫の嗅覚受容体を発現するSf21細胞(センサ細胞)は、液中に溶解した匂い物質を検出し、蛍光強度変化を示す。気体の匂い物質を検出できる匂いセンサとしてセンサ細胞を利用するためには、センサ細胞が応答する濃度まで、気化した匂い物質を効率的に溶かし込む技術の確立が必要となる。本研究では、気体の匂い物質を高効率に溶かし込む技術を確立し、センサ細胞と統合した匂いセンサ開発の基礎技術の確立を目指した。 昨年度までに、従来手法を用いて液中に匂い物質を溶かし込むことができることを示してきたが、本手法は、気体に加えて、液化した匂い物質が混入するという課題が判明した。そこで、本年度は、液化した匂い物質が混入しない手法へと改良し、気体の匂い物質を溶かし込む手法の確立を試みた。気化した1-octen-3-olの溶かし込みの結果、GC-MS分析で、5分後から1-octen-3-olの溶解が確認でき、60分後に最大170microMの濃度で溶解できることが分かった。ナノ粒子解析により、1週間以上にわたりウルトラファインバブルの形成を確認した。以上から、短時間で気体の匂い物質を溶解でき、長期間液中に保持できることが分かった。 次に、溶かし込んだ匂い物質に対するセンサ細胞の応答を検証するため、5分後、60分後のサンプルに対するOr13a発現細胞の蛍光応答を測定した。その結果、Or13a発現細胞は、いずれのサンプルに対しても蛍光強度変化を示し、従来の有機溶媒を用いた液状の匂い物質を溶解したときと同等の濃度依存的な蛍光強度変化を示すことが分かった。以上の結果から、短時間で効率的に気体の匂い物質を液中に溶かし込む技術を確立し、本技術をセンサ細胞に適用できることを示した。現在も、有機溶媒や匂い結合タンパク質を含む液中への溶かし込みを検討しており、さらに高効率な溶かし込み技術へと改良を進めている。
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