研究課題/領域番号 |
15K14918
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北島 健 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (80192558)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 先天性糖鎖合成異常症 / デアミノノイラミン酸 / マンノースセラピー / 代謝 / 糖質 / 治療 / シアル酸 / 代謝酵素 |
研究実績の概要 |
先天性糖鎖合成異常症CDG1bの新療法としてKDNセラピーを開発することを目的として、次の(1)~(4)の項目に取り組んだ。(1) CDG1b細胞などの確立:CDG1bの原因遺伝子であるPMI(ホスホマンノイソメラーゼ)遺伝子の発現抑制細胞株をマウスおよびヒト細胞で樹立することを試みた。安定発現株の樹立において、Sh-RNAの効果が不十分であることが多く、適当な細胞の樹立が予定より遅れた。 (2) KDNおよびMan代謝産物の解析法の確立:KDNの代謝糖の微量定量を確立することができた。蛍光標識したものを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離・定量する方法で、測定試料の調製法を含めて詳細に検討し、液体窒素で急速に試料を凍結する方法が重要であることをつきとめた(日本糖質学会で発表)。HPLC分析では測定試料数が多いため既存ポンプを拡充してポンプと検出器を1台ずつ購入した。 (3) CDG1b細胞へのKDN添加の効果の解析:PMI抑制細胞の樹立がほぼ完成したので、現在、ManおよびKDNの添加細胞を回収して代謝物の量的変化を追跡している。また、KDNセラピーにおける細胞の変化を調べた。20 mM Man添加によって細胞増殖や生存活性が抑制される一方、同程度の高濃度のKDN添加によっても細胞増殖や生存は影響をうけず、むしろ生細胞数がやや増えることが判明した。(4) CDG1b細胞の表面糖鎖変化の解析法の樹立:当初の哺乳類細胞にシアル酸の構造の一部にアルキンを導入したSiaNAlおよびその前駆体ManNAlを用いてクリックケミストリーの手法で確認する方法を導入する予定であったが、その前段階として、(2)で樹立した方法が、CDG由来細胞表面のシアル酸量を定量する方法として適応可能である事を証明した。今後、この手法を利用すれば、より簡便に不全糖鎖の程度を評価することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的に対して、設定した研究項目は、依然として理に適ったものであると考えられる。その上で、CDG1b細胞の樹立については、CDG1bの原因遺伝子であるPMI(ホスホマンノイソメラーゼ)遺伝子の発現抑制細胞株をマウスおよびヒト細胞で樹立することがやや遅れた。安定発現株の樹立において、Sh-RNAの効果が十分に現れてこない場合が多く、その原因追及に時間がかかったため予定より遅れた。それ以降の研究が樹立細胞を使用した研究になるため、それらの研究がようやく始まったところである。以上のことから、当初の予定よりもやや遅れていると判断している。しかし、樹立細胞が樹立できた現在、今後の実験の遂行は可能であると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
研究全体の基本的な推進方策については、目的の達成には重要な項目であるため、特に変更はない。今後は、以下の項目を順次推進する。(1) 細胞レベルにおけるKDNセラピー条件の決定:PMI欠失および抑制細胞を用いて、KDN添加の濃度、時間を最適化する。(2) CDG1b脳をもつマウスの作製とKDN添加の効果の解析:ヒトのCDG診断は、血中トランスフェリンの糖鎖付加プロファイリグや遺伝子診断など生体検査によって行われている。実際にヒトに適応する前段階として、個体レベルにおけるKDNの効果を知る必要がある。まず、CDG1bモデルマウスとして樹立されたPMI欠失マウスに対するKDNの効果を調べる。また、子宮内エレクトロポレーション技術を使って、正常マウスの子宮内胎児の脳室にPMI抑制siRNAを導入して、CDG1b脳をもつマウスを作製して、KDNセラピーの効果を観察する予定である。(3) マウスにおける長期KDN投与の副作用の解析:KDNの長期投与の効果を評価するために、KDNまたはコントロールとしてManを一定量定常的に飲料水として投与して、形態的変化、糖代謝量の変化を調査する。なお、Manについては、飲料水として投与する方法が適正であることは我々自身の研究によってわかっている。(4) 個体レベルにおけるKDNセラピー条件の決定:前項(2)と(3)の解析に基づいて、個体レベルでの最適なKDN添加の濃度、時間を決定する。
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