先天性糖鎖合成異常症CDG1bの新療法としてKDNセラピーを開発することを目的として、昨年までに、KDNおよびMan代謝産物の解析法の確立、CDG1b細胞の表面糖鎖変化の解析法の樹立に取り組み目的を達成した。しかし、CDG1bの原因遺伝子であるPMI(ホスホマンノイソメラーゼ)遺伝子の発現抑制細胞株の取得について、一過性発現細胞の調製が可能であることは証明できたものの、安定発現株の樹立については達成できなかった。Sh-RNA法によって昨年度に樹立できたと判定された細胞も培養過程で効果が減弱してしまった。合計7種類のノックダウン・プローブを単独および混合して試み、またCRISPR-Cas9法による遺伝子欠失も試みたが、いずれも抑制細胞の樹立に至らなかった。この過程で何が起こったのか追及したが、これまでのところ原因の究明には至っていない。長期培養によってPMI抑制細胞が淘汰されてしまうのかも知れない。本研究の目的に対して設定した研究項目は理に適っているが、これまでの結果を受けて方向転換を行い、CDG1bモデルマウスの導入とヒトCDG1b患者由来の細胞の利用を加速化させている。今後、KDNセラピーの効果の評価と条件設定を本格化する予定である。また、本研究目的であるKDNの生体内挙動の理解の一環として、KDNが哺乳類細胞に取り込まれる分子機構の解明を行った。マウスとヒト細胞をKDN存在下で培養する際に、種々の物質輸送阻害剤を共存させて、KDNの取込量を測定した。その結果、ピノサイトーシス機構とモノカルボン酸輸送体の一種が関わることが判明した。また、典型的シアル酸のNeu5AcによるKDN輸送競合は起こらず、KDNはシアル酸の一種であるにも関わらずNeu5Acとは異なる取込機構が働いているという興味深い結果が得られた。今後のKDNセラピーの樹立に向けて重要な知見である。
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