研究課題
本研究では、申請者がこれまでに開発してきたマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法を基盤とした質量分析イメージング技術を先鋭化することで、これまで未知であった植物個体内微少領域における代謝動態の二次元可視化を試み、植物代謝研究における新たな基盤技術の創生と生理・形態学的情報を与える新たなオミクス解析ツールの提供を目指す。本研究では傷害ストレスを与えたトマト果実における代謝応答の空間的変動を捉える事を目的とした。果実は傷害を受けると通常の成熟速度よりも急速に成熟が促進されることが知られており、様々な二次代謝産物(エチレン、ジャスモン酸など)の関与が報告されている一方、果実内のどこでどのような代謝応答が起こっているかはほとんど分かっていない。そこでトマト果実内の局所的な代謝動態を詳細に理解するために質量分析イメージング技術を用いて代謝物分布の可視化を試みた。熟度の異なる果実の代謝物分布比較を行ったところ、成熟過程で有機酸(リンゴ酸)の見かけの濃度が減少し、旨味成分(グルタミン酸、AMP)の見かけの濃度が増加していた。さらに、本研究により抗菌成分であるトマチンが傷害部周辺に特異的に蓄積することが明らかとなった。以上の結果からMSI分析は果実の局所的な生理現象を理解するために有用な技術であることが示され、今後、未解明な植物生理現象を理解することに貢献すると考えられる。現在既にシロイヌナズナの葉を用いた応用研究を進めており、分析技術としての基盤整備も順調に進んでいる。
3: やや遅れている
いくつかの研究項目については当初の計画より大幅に進んでいるが、未知代謝物同定に用いる予定であった超高分解能質量分析装置の故障により、この項目だけは当初の予定より遅れている。
未知代謝物同定については共同研究者の協力により順調に進める目処が付いている。今後は本研究の成果をモデル植物であるシロイヌナズナなどの代謝解析に応用し、植物生理学的基礎研究を初め作物の品種改良など幅広い応用研究に極めて重要な革新的代謝解析技術の整備を進めていく。
当初予定していた機器の使用について、複数箇所の故障により実験が不可能になり、また予想外に修理に時間を要し期間内に満足に実験結果を得ることが出来なかったため、研究機関後期には共同研究者の保有する機器を使用して実験を継続したが、当初の予定通りに実験が進まなかった。
得られた成果の外部発表および消耗品の購入などに使用する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Analytical and Bioanalytical Chemistry
巻: 409 ページ: 1697-1706
10.1007/s00216-016-0118-4